東京経済大学

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現代を生きるうえで欠かせない科学的な態度、考え方とは?



榎 基宏
榎 基宏 准教授
(えのき もとひろ)


大阪大学理学研究科宇宙地球科学専攻修了。専門は天文学、宇宙物理学。東京経済大学では宇宙観、原子論の変遷から科学の歴史を学ぶ「科学論」、物理学の基本について学ぶ「自然の構造」などを担当。

科学に興味を持つ学生がTKUにはたくさんいる

東京経済大学の教壇に立ち、文系学部生に教えるようになって驚いたのは、天文などに興味を持っている学生が意外なほどたくさんいるということです。きっと、ほとんどの学生は高校時代には理科はあまり履修しなかったでしょうし、どちらかといえば嫌いだった人が多いと思います。ただ、「自分は高校時代は理科は嫌いで苦手だったけど、天文学には興味があったんです」と私のゼミを選んでくれる学生もいます。
私は、そうした学生に会うと、彼らは自分の興味関心をさらに広げたり、あるいは新しいチャレンジをしてみたりしたくなったのだろうと思うのです。実社会に出て行く前に、科学の一端に触れて、自分自身の幅を少しでも広げておくことはとても素晴らしいことだと思いますし、もしかすると大学4年間は最後のチャンスかもしれません。


科学的な思考と豊かな体験の場を与えたい

とはいえ、本学の学生たちにとって、物理の公式を使って複雑な問題を解けるようになることはあまり重要ではありません。授業でも、説明の都合上、数式を使うこともありますが、「計算できるようになることが目的ではありませんよ」と言い添えるようにしています。大切なのはむしろ考え方ですから、科学的知識を教えるというより、科学的な思考の場を講義の中でたくさん与えたいと思っています。つまり、科学は思考の訓練のためのネタとして使っています。
そして頭の中で考えるだけでなく、出来るだけ自分の目で実際に見て確かめることも大切にしてほしいと思っています。書籍を通して、あるいは人に聞いて収集した知識だけでの判断と、自分の目で確かめてからの判断では質は全く違うでしょう。
実際、最近の学生に感じるのは体験の乏しさです。例えば、星空を眺める天体観測、磯遊びの中での生物観察など、私たちが小・中学生のころに当たり前にやってきたようなことを体験したことがない学生が少なくありません。体験が乏しいと、視野が固定され、思い込みでものごとを決めてしまいがちになりますが、それは就活の場面でも同じではないかと私は感じています。「自分にはこの業種、職業しかない」と絞り込んでいる学生もいますが、それは信念というよりも、もしかすると体験の少なさからくる思い込みであるようにも思います。さまざまな体験の場を提供し、広い視野でものごとを考えられる人材を育成することも、科学教育の目的です。


ものごとの裏側を論理的に考える習慣を

学生たちと一緒に、天文ドームを持つ八ヶ岳のホテルに天体観測に出かけたことがあります。12月のその日は皆既月食で、深夜、寒さに耐えながら皆で月食を観測しました。
月食を観測すること自体、とても貴重なことですし、 望遠鏡から見える月食はただただ美しいものです。だから、その体験を学生たちは心から楽しんでいました。しかし、楽しむだけではなく、現象から何が読み取れるか、なぜそうなるのかを踏み込んで考えることも必要です。そこで、観測に先立って、月食という現象が、地球が丸いことの根拠の一つになること、月と地球の位置関係を示すことができるなど、基礎的な考え方を講義し、それを土台に、現象を論理的に説明する作業を体験できるようにしました。
見るだけでなく、裏にあるものはなにかを論理的に考えることを習慣づけてほしいと思います。そうした姿勢は自然科学の領域だけではなく、経済学や経営学などの文系の分野でも必要だからです。その意味では、科学的な思考力は、文系理系の壁はありません。


立ち止まって考える力を大学での学びで培う

学生には、もっと多様な体験を積む一方で、社会には科学に限らず、自分の知らないことがたくさんあることを自覚してほしいと思います。
インターネットが発達した現代の情報社会では、不正確な情報に惑わされたり、それどころか、意図せず善意で間違った情報を社会に広めてしまったりすることもあります。これはなにも学生に限った話ではなく、社会的な経験を重ねた人でもやってしまうことがあります。
物事の表面部分だけを見て判断するのではなく、立ち止まって「これは本当か」「どうしてなのか」と考える力は、現代を生きるための必須の力です。だから、どんな講義、ゼミでも、教員が語ったことにどんどん疑問や異説を投げかけてほしいですし、そうするうちに「議論を深めるためには、土台となる知識と論理的思考が必要だ」と実感できるはずです。科学的な態度は、きっと生涯を通じた学びへのモチベーションへとつながるでしょう。


  物理学の基本について入門的な講義を行う「自然の構造」で、私が必ず学生に考えてもらう問題があります。

【問題】
あなたは、スピード違反を取り締まっている警察官です。あるとき、最高速度が時速50㎞の道路を時速80㎞で走っている自動車がありました。停車させるとドライバーは、「私が時速80㎞出したって本当ですか? 私は家を出て、5分しか経っていません。時速80㎞って1時間で80㎞進むってことでしょ? どうしてまだ5分しか経っていないのに、私が1時間後に80㎞も進んでいるなんてわかるのですか?」とあなたに言います。あなたはどう対応しますか。

【解説】
 実はこれは、「平均の速さ」と「瞬間の速さ」の違いを考える、物理の世界では有名な問題です。「速さは距離÷時間で求められるから......」と考えると、「あれ、確かに1時間後のことがなぜわかるの?」と混乱してしまうかもしれません。  時速80㎞というのは「このスピードで1時間進む"と仮定したら"80㎞進む」という意味です。だから、実際に1時間進むかどうかは関係ないのです。

鉄から金を作る!?

鉄から金をつくる!?

「錬金術」といえば、化学的手段を用いて卑金属(金や銀以外の金属全般)から貴金属(特に金)を人工的に作り出そうとする試みのことです。この錬金術に、古代ギリシャの時代から人類は挑戦してきました。
ギリシャの人々は、すべてのものは「空気・火・土・水」の4元素からできており、この組み合わせを変えれば異なる物質をつくることができると考えました。これは、物質は原子でできていて、原子の組み合せを変えれば異なる物質をつくることができるという現代の化学の基礎へと続くものです。
では、錬金術はなぜ失敗したのか。それは、化学反応では原子を組み替えるだけで、原子の種類を変換できないからです。金の原子を含んでいないものからは金はできないのです。
では、本当に原子の種類を変換できないのでしょうか? 実は私たちはその手段を手にしています。それは核反応です。原子の中の陽子や中性子を組み替えてしまい、原子の種類を変えてしまうのが核反応です。つまり核反応によって、金ではないものから金が生み出せるわけです。
現代の科学があれば錬金術は理論上は可能です。でも実際には誰もやりません。それは、十分な量の金を得るためには、膨大なエネルギーが必要で、コスト的に全く採算が合わないからなのです。しかし、金は、恒星の進化の過程で核反応によって合成されます。自然は、錬金術を行っているといえるでしょう。

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