東京経済大学

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サイエンスを通して私たちにできる社会貢献



新正 裕尚
新正 裕尚 教授
(しんじょう ひろなお)


京都大学理学研究科修了。専門は地質学、岩石学、地球化学。東京経済大学では地震と火山のメカニズムなどについて学ぶ「地球の科学」、BBCニュースサイトなど英語で書かれた科学ニュースの内容を理解する「教養ゼミ」などを担当。

科学に対する興味を学生たちに取りもどしたい

人は最先端のものや想像を超える形、性能のもの、そして未知の生物などを見ると、「すごい! おもしろい!」と感動するものです。その心の動き方に文系と理系の間で違いがあるわけではありません。好奇心さえあれば、「数学や理科がずっとニガテだった......」という文系の人たちも、科学を楽しむことができます。
ただ、なにが心に響くか、人によって好みは異なります。私の専門は地質学、岩石学ですが、断層や節理(岩石に発達する割れ目)などを見ると、長い時間をかけて地球がつくった芸術作品のような美しさを感じます。また、生き物の不思議な生態や、宇宙の成り立ちについてより強い興味を感じる人もいるはずです。学生たちには、どんな分野でもよいので、「科学」に対しての興味を大切にしてもらいたいと思っています。
考えてみれば、きっと小学生の頃は多くの人が自然観察や工作など、科学的な活動が大好きだったはずです。でも、中学生くらいになって数学や理科の「勉強」になると、嫌いになる人が増えてしまう。今、多くの博物館では、「小学生は見学に来てくれるけれど、若い人や大人が足を運んでくれない」と悩んでいるそうです。私も、学生たちが、子どもの頃に持っていた科学への興味関心を取り戻す、そのお手伝いができればと思うのです。


サイエンスに対する興味喚起は科学者としての社会貢献

若者たちが科学に対して興味を抱き、科学の進歩に共感できるようになることは、「科学技術創造立国」をめざす日本にはとても重要です。科学をおもしろいと思う人が増えないと、結果的に人材も資金も集まらず、研究機関や企業の国際競争力はますます低下します。国際的な学力調査で、日本の子どもは成績が良いにもかかわらず、科学に興味がある成人の割合が少ないことが明らかになっていますが、こうした理科離れを食い止めようと、中学校や高校に出前講義に行くなど、アウトリーチ活動を重視している科学者はとても多くなってきました。
科学の中には、まだその価値がよくわからないもの、すぐに社会の役に立つかどうか見通しが定かではない研究もたくさんあります。そうした研究を軽視せず、今はわからないけれどいつか役に立つかもしれないと育んでいける社会は、芸術に対する理解と同じで、豊かな知性をもっている社会だと思います。さまざまな知性を育む心の余裕をもった社会を築くことは、科学者にとって重要なテーマなのです。


体長は50マイクロメートル?1.7ミリメートルの緩歩動物「クマムシ」は、そのユニークな姿がインターネット上で話題に。
「水がなくても120年生きる」「摂氏150度、マイナス200度で数分間死なない」「宇宙空間で10日間生存」など極限状態で生存する力を持つため、「地球最強の生物」とも呼ばれている。
(写真提供:京都大学フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所・講師・宮崎勝己 写真撮影:京都大学理学研究科・大学院生・藤本心太)
見抜き、選ぶ力を身につけさせたい

現代は、ものばかりではなく、情報もあふれている時代です。そして、たくさんの情報を前に、自己決定を迫られる場面がたくさんあります。例えば、医療においても、インフォームド・コンセント(説明と同意)の考え方が広まり、医師の説明を聞いたうえで、患者自身が決断することになります。また、エネルギー政策における原子力発電の位置づけも、たくさんの情報を分析したうえでの判断が求められるテーマです。このように、情報社会は、常に科学的・論理的判断が求められる時代です。そしてよりよい判断を下すためには、論理的にものごとを考える力が、私たち一人ひとりに必要なのです。
市民に必要なのは、物理や化学の専門知識ではなく、情報に接したときに、それは本当かどうか、別の見方はないか、最善の選択は何かを論理的に考える力です。特に最近は、健康や美容に関して疑似科学的な商品もたくさん出ています。そうした疑わしいものを見抜き、批判していく力の育成も、大学教育ではより意識していかねばならないでしょう。


科学に関連する企業も視野に入れてほしい

科学に接することは、大学生のキャリア形成の面でも意味があると私は考えています。
本学の学生は、ほかの人文・社会科学系の大学と同様に、販売や金融など、いわゆる文系的な業種の企業をめざすケースが多いのですが、当然、世の中にはさまざまな業種の企業があり、その会社の中でも多様な職種の人々が働いています。例えば、岩盤を掘削する工作機械をつくる会社にも、営業や企画の仕事があります。採用規模は決して大きいとは言えないかもしれませんが、そういう企業が視野に入ると、就職の選択肢は大きく広がります。
大学で履修する自然科学系の講義やゼミ、そして学内GPとして展開されている「サイエンスツアー」「サイエンスカフェ」などに参加することは、単に科学を楽しむだけでなく、そうした将来の進路の発見につながる可能性があります。もしかすると、自分の生き方を大きく変えるきっかけになるかもしれない...そんな期待を胸に、一人でも多くの学生に「サイエンスツアー」「サイエンスカフェ」に参加してもらいたいと思っています。


学内GPTKUスーパーサイエンスシリーズ

大久保先生、榎先生、そして新正先生は、学内GPに採択された「TKUスーパーサイエンスシリーズ」の企画・実践者です。この取り組みには、「サイエンスツアー」と「サイエンスカフェ」の二つのメニューがあります。

研究施設訪問や、自然観察などで科学を体感! ─サイエンスツアー

実体験を通して科学に対する興味を高めることを目的とするのがサイエンスツアー。日帰りまたは1泊2日で年2、3回実施されています。
例えば、2012年度の伊豆半島の1泊ツアーは、新正(地学)・榎(天文学)・大久保(生物学)の3人の先生の専門分野が凝縮された内容。まず、中伊豆の採石場で柱状節理(溶岩が冷える過程でできた柱状の規則的な割れ目)を観察。その後、海に出て、浜の生物を観察し、夜は天体観測を行うというぜいたくな行程になりました。
ツアーでは普段はなかなか立ち入ることができない研究施設も訪問します。これまでは、最先端のスーパーコンピュータ、大深度有人潜水調査船「しんかい6500」の見学など、驚きとともに楽しく学べる内容になっています。
また、喫茶を楽しみながら気軽な雰囲気で科学者の話を聞き、語り合うのがサイエンスカフェ。学習センターを会場に、年3回ほど開催されています。昨年度は脳科学、マグマ学、海洋生物学の研究者をゲストに招きました。

高圧実験
海洋研究開発機構、横浜研究所で深海環境を再現する、高圧実験水槽の実演を見学。
柱状節理観察
採石場で「火山の根」を観察。古い火山体が浸食を受けて、見事な柱状節理が現れた。砕石の製品化のプロセスも学ぶ。
海辺の生物観察
宇佐見港で自作プランクトンネットを引き、捕まえた生き物を観察。
天体観測
学内での太陽観察の様子。サイエンスツアーでは、天文ドームでの観測や、電波望遠鏡の見学も行った。


科学者と語り合い、科学を楽しむ─サイエンスカフェ

お茶やお菓子を楽しみながら、リラックスした雰囲気で先端的な科学研究の話を聞く。素直な感想、素朴な疑問をぶつけてみることで、さらに対話が深まっていく。だから、「自分の言っていることは間違っているかも」などといったことは気にせず、思ったことは口にしてみるのが、このカフェのマナー。

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