環境を守るためには、コストがかかります。二酸化炭素の削減にも、ペットボトルの再利用にも、原発の事故処理にも、すべて費用がかかっています。このとき、"誰がどの位の費用を負担することが社会的に最適か"を探究し、改善案を提案するのが「環境経済学」という学問です。二酸化炭素の排出量取引や容器包装リサイクル法は、まさにこの考え方によるものですね。経済学はとっつきにくいという人がいますが、経済学的なものの考え方は、環境問題をはじめ、我々の日常生活に大いに組み込まれているものなんです。
2012年に、東京駅丸の内駅舎が約100年前の創建時の姿に復原されました。この復原工事にかかった莫大な費用、どうやって捻出したと思いますか? ――答えは、東京駅上空の空間「空中権」の売却です。
東京駅は、建築基準法上はもっと高いビルを建てられるのですが、その権利を周辺企業に売って工事費用を得ました。一方、「空中権」を買った周辺企業は、本来の容積率以上の高層階のビルを建てられるようになりました。"使わない建物上空の空間は売ってOK"という政策によってこの経済取引が成立し、文化的・歴史的に非常に価値のある建物を保全することができたわけです。これは、環境経済学の発想を取り入れた成功例といえるでしょう。ただ一方で、周りのビルが高層化して東京駅が埋没してしまった、という意見もあります。皆さんもぜひ、東京駅を自分の目で見て、考えてみてください。
ゼミで一番大事にしているのは、社会を見る目を養うこと、そして知的好奇心を高めることです。「ペットの殺処分を減らすには」「日本の喫茶店文化を観光資源として活用するには」など、研究テーマはいずれも社会への関心から生まれたもの。経済学に限らず、経営学や社会学、心理学など幅広い学問領域にまたがることも珍しくありません。以前は、「1週間で最も気になったことを30秒でスピーチせよ」という課題を毎週出していました。これも、身の回りにアンテナを張るきっかけ作りの一つです。
私のゼミに"即効性"はないかもしれません(笑)。でも、それでいいと思っています。ゼミの研究は、常に3〜5人のグループワークで進めます。モチベーションも理解度も違うメンバーと共に一つのものを作り上げる経験は、今後組織で働くうえで絶対に無駄にはならないはず。また、どんな研究でもフィールドワークを実施します。現場に足を運び、直接見たり聞いたりすることで得られるものを大切にしてほしいからです。それから、私はしつこく「なぜそのテーマ?」「なぜその研究対象?」と突っ込みます。この"なぜ?"の積み重ねが、論理的な思考力を身につける訓練になると思っています。卒業後も、学び直したくなったり悩んだりした時は、いつでも会いにきてほしいですね。
※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。