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2016年度 第18回 現代法学部 金﨑 剛志 専任講師

安心して水を飲める。行政法のひとつ、水道法のおかげす。現代法学部 金﨑 剛志 専任講師 安心して水を飲める。行政法のひとつ、水道法のおかげす。現代法学部 金﨑 剛志 専任講師

Kanesaki Tsuyoshi
東京経済大学 現代法学部専任講師
東京大学法学部卒業。東京大学大学院法学政治学研究科 法曹養成専攻専門職学位課程修了。2010年、司法試験合格。東京大学大学院法学政治学研究科総合法政専攻 博士課程修了。博士(法学)。一般財団法人行政管理研究センター研究員を経て現職。国分寺市情報公開・個人情報保護審議会委員も務める。主な担当科目は、現代行政法、地方自治と法。

「行政法」って、よく分からないのですが......。

 水道からキレイな水が出る、舗装された道路を安全に歩ける、レストランで安心して食事ができる、通行に邪魔な放置自転車が撤去される──。日頃なかなか実感することはありませんが、世の中には私たちの安全・安心な暮らしを守るために、様々な規制や仕組みが存在しています。冒頭の例では、「水道法」「道路法」「食品衛生法」「自転車等の放置防止に関する条例」がそれぞれ該当します。これらの行政に関する法律をすべて総称して「行政法」と呼んでいるのです。

ゼミでは、裁判例をじっくり読み込むそうですね。

 私のゼミでは、法律の知識を「覚える」ことではなく、法的な「思考力を養う」ことを目的としています。一つの裁判例に2カ月も費やして徹底的に読み込むのはそのためです。まずは判決を読み、事案の概要を正確に把握することからスタート。その後、今回の事案を裁判所はどの法律にあてはめ、どのような解釈をしたかを読み解き、その妥当性を検討していきます。どれも非常に根気のいる作業ですが、じっくりと裁判例を読み込む経験は、法的な論理的思考力を身につける有効な訓練になるはずです。
 今年度のゼミ生は10人。当初は「間違った発言をしたら恥ずかしい」という気持ちがあったようですが、最近は質疑応答や議論でも積極性が出てきました。公務員試験を目指している学生もいて、みんな頑張っています。また、直感でものをいう学生の意見が意外に的を射ていることもあり、面白いものです(笑)。

例えば、どんな裁判例を取り上げるのですか。

 先日は、公権力による「権限の濫用」に関する有名な裁判例を取り上げました。
 ある町に風俗店がオープンしました。しかし地元住民が猛反対。そこで県と町は「児童福祉施設から200m以内で風俗店の営業はできない」という当時の風俗営業等取締法を利用するために児童福祉施設を誘致し、風俗店を営業停止処分に追い込みました。これに納得できない風俗店が提訴し、勝訴したという事案です。
 ここで大切なのは、事案の結末そのものではなく、そこに至る考え方です。問題とされたのは、行政庁による児童福祉施設の設置認可が「児童の健全な育成のため」という本来の目的ではなく、「風俗店の開業を阻止するため」に行われたこと。これが「行政権の濫用」であるとし、違法と判断されたのです。ゼミではこのように「なぜその判決に至ったか」を学生自身が導き出せるようになることを目指しています。

行政法をはじめ、法学を学ぶことのメリットとは。

 「頭の中に地図が描けるようになる」ことでしょうか。例えば行政法を一通り勉強すると、世の中のニュースの背景がより深く正確に理解できるようになります。どの法律が適用されるか、過去に類似した事件はあったか、解決するためにはどうすればいいかなど、頭の中の地図に導かれて関連する内容がどんどん浮かんでくるといった感覚です。
 大学卒業後、日常的に法学の知識を使う人は多くはないかもしれません。でも、「社会人として世の中を正確に見る目」「豊かに生きるための知恵」が身につくことは大きなメリットだと思います。

「広い視野」と「狭い視野」を大切にしているそうですね。

 「この世で最も視野が広いのは"赤ちゃん"である」という話を聞いたことがあるでしょうか。例えば、赤ちゃんの頃は日本人でも、英語のLとRの音の違いを難なく区別するそうです。ところが、日本語を習得するうえでLとRの識別は不要なので、次第にその能力が衰えていくのだそうです。つまり、何かを学びとっていくプロセスは、必要なものを効率的に吸収すると共に余計なものを削ぎ落とす、ある意味では「視野が狭くなっていく」ことに他ならないのです。
 皆さんが今後、専門的な学びを深めたり、特定の職業のプロフェッショナルになったりすることは、素晴らしいことです。ただ同時に「いま、視野が狭くなりすぎたり偏ったりしていないかな」あるいは「最近、視野が広く散漫になりすぎていないかな」と両方の目を意識しておくと、より充実した人生が送れるのではないでしょうか。

※掲載されている教員の所属学部・職位及び研究テーマ等は、取材当時のものです。