皆さんは、部活やアルバイト先などの人間関係で揉めたことはありませんか? あるいは、社会人が上司や同僚との関係に悩んでいるという話を聞いたことはないでしょうか? 「組織コミュニケーション」とは、何らかの共通する目的を達成するために集まっている集団(=組織)の中でのコミュニケーションのあり方を考える学問のことをいいます。
経営学が "社長"の目線でものを考える傾向であるのに対し、組織コミュニケーション論は、「もっとイキイキ働くには」「多様なバックグラウンドのメンバーでチームワークを築くには」など、一人ひとりの"社員"の立場に立って考える学問ともいえるでしょう。
欧米の会社の多くが、明確な職務に人をあてはめる「ジョブ型」(いわゆる"就職")であるのに対し、日本の会社の多くは、まず人ありきで職務は限定されない「メンバーシップ型」(いわゆる"入社")の組織といわれます。それぞれ長所・短所はありますが、私は日本型組織の最大のメリットは「現場からイノベーションが生まれやすいこと」だと考えています。
ヤマト運輸の事例を見てみましょう。いまやおなじみの「スキー宅急便」は80年代初め、長野の営業所の社員が「スキー板を担いで移動するのが大変そうだから」と発案し事業化されたものだそうです。トップダウンで指示された仕事だけをこなしていればいいという意識ならば、この事業は決して生まれなかったでしょう。「より良い商品・サービスを社会に提供したい」「この会社を良くしたい」という現場社員の高いモチベーションは、日本の企業の大きな強みなのです。
「社会」が変われば「組織」が変わり、組織が変われば「仕事」も変わります。いま日本企業が抱える諸問題は、メンバーシップ型モデルの新たなあり方が問われている、ということでもあります。
例えば女性活用の問題は、戦後に形成されたメンバーシップ型モデルの負の側面の一つでしょう。国や企業が男性を主戦力と捉えていた時代を経て、いまや女性の進学率やキャリアに対する意識は様変わりしました。今日の男性管理職には、自身の時代とは大きく異なるマネジメントが求められているのです。
またブラック企業の問題は、メンバーシップ型の働き方を会社が悪用した結果です。職務が明確でない分、あれもこれもと過密な労働を押し付けてしまったのです。かつてのような安定的成長が望めないいま、どのような人事メカニズムが望ましいのか、私自身も新たなモデルの提唱に挑戦しているところです。
3年生は2つのグループに分かれて研究しています。テーマは「メンバーの主体性が集団浅慮(集団で考えることによって適切な判断がなされない現象)に与える影響」「上司の言動が部下のワークエンゲイジメントに与える影響」。問題意識を明確にし、先行研究を検討し、仮説を立て、調査・分析して論文(1万字)にまとめるという研究活動に1年間かけて取り組みます。これは、もちろん簡単なことではありませんが、皆で試行錯誤しながら頑張っています。
ただ学部生ですから、仮説通りに結果を出すことはそれほど重視していません。むしろゼミでは、仮説通りに結果が得られなかった原因をしっかり考えるという経験をしてほしいと思っています。その経験を通じて、卒業研究や卒業後の仕事でうまくいかないときに、新しいアイディアを生み出す心構えと能力を養えるからです。
「大学は遊ぶ所だ」という人もいますが、大学全入時代のいま、大卒ということだけではもはやブランドになりません。そして、4年間で「何をどんな深度で学ぶか」は君たち一人ひとりに委ねられています。この時期の努力の量、時間の使い方次第では飛躍的に成長できます。東経大、特にコミュニケーション学部は、少人数教育が特長で教員との距離も近いですからどんどん活用してください。主体的・積極的に学ぶ心意気のある学生をお待ちしています。
※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。