東京経済大学

MENU

2018年度 第39回
コミュニケーション学部 大岩 直人 教授

自分は他人と違う。自分は他人と同じ。どちらも正しい。表現はそこから始まる。コミュニケーション学部 大岩 直人 教授 自分は他人と違う。自分は他人と同じ。どちらも正しい。表現はそこから始まる。コミュニケーション学部 大岩 直人 教授

Oiwa Naoto
東京経済大学 コミュニケーション学部教授
一橋大学社会学部卒業後、電通に入社。インビジョンアワードグランプリ(1999年)、NYワンショー金賞(2005年)、カンヌ広告祭銀賞(2007年)、カンヌライオンズ銅賞(2015年)など受賞歴多数。電通退社後、2016年から「モノ・カタリ。」の屋号で活動。2017年から現職。主な担当科目は、広告論、コミュニケーション戦略論、コンセプトと表現ほか。近著に『おとなのための創造力開発ドリル』(共著)、『スーパードットなひとになる。』

「ひとと違うことを考えられるようになる、ためのゼミ」とは?

 まず、ゼミの名称から疑ってかかってください。そもそも、あなたと他人は根本的に違う人間なのか、それとも、実はそんなに変わらない似た者同士なのか。容易く「そうか、ひとと違うことをしよう」なんて思わないことです。
 ......ワケ分からないですか? そう、分かった気になって小利口な人間になるのは止めましょう、というゼミでもあります(笑)。どれだけ常識のタガを外せるか、どれだけ色々な角度から物事を考えられるか。そういうものの見方を鍛えて、「アイデアを生み出す」ことに重点を置くのが2年生、それを形にして「アウトプットする」ところまでやりきるのが3・4年生です。

その「ものの見方」は、どうやって磨くのでしょう?

 例えば「解像度を上げる」という体験では、夏休みの経験を1時間プレゼンして、というお題を出します。ただし、スマホ上のメモ禁止、ネット接続不可。これ、普通の人は10分と持たないはずです。例えば「アートイベントに行ってこんな絵を見ました」じゃ話にならない。どういうイベントで、どんな作品があり、どんな絵が気に入り、何を感じたのか。それを延々と1時間語れるほど「解像度の高い経験」をして、誰かに伝えることが、面白いコミュニケーションの第一歩なんですよね。1年も経つとだんだん話せるようになってくるものです。
 具体的な「クリエイティブテクニック」に関する分析もします。例えば、名作コピーの一つ「おいしい生活」(西武百貨店)は、生活を形容する言葉との組み合わせにおいて最も素敵な違和感のあるパターンを選んだもの。「美女も野獣」(エバラ焼肉のたれ)は、童話のタイトルをもじったものですね。助詞ひとつ変えるだけで文脈が大きく転換しています。「プール冷えてます」(としまえん)は、「ビール」を「プール」に変えてみたらどうなるかという組み替えです。実際のコピーライターがどう発想したかはともかく、人が考えることは意外に似ていて、そんな中で新しい見せ方をするには一定のテクニックがあるのだ、ということも学んでいきます。

卒業制作は、ユニークなものが多かったとか。 

 2時間にわたる長編ドキュメンタリー、東京の街をイメージした創作ダンス、映画に登場するAIを考察した論文など、個性的な卒業制作・論文が揃いました。「社会心理学から考察する体験型技術がもたらすメディア概念の変容について」というアート&サイエンスな論文を仕上げた学生もいます。人と人、人と社会の間(=ミディアム)に介在するものだったメディアは、VRなどの発展によりいまや身体や頭脳と一体化しつつある、という考察は秀逸でした。
 印象的だったのは、なんの制作経験もない学生たちがYouTubeでチラッと使い方を見てスマホをいじっているうちに、あっという間に動画編集までできるようになってしまうところ。とりあえずスマホでやってみよう、という感覚が非常に今日的というか、新鮮でしたね。僕にはできません(笑)。

広告界の第一線で活躍されてきた経験は、どう生きていますか。

 表現するって、楽しい。ものすごく大変だけど、やっぱり楽しい──。そのことを感じてもらえたら、僕がいる意味があるのかなと思います。実際のところ、アイデアを出すのもそれを形にするのもとてもつらい作業だし、自分が作ったものを人にさらすというのは怖いものです。例えばカンヌライオンズ(*)のような国際的な広告祭に作品を出品すると、時に罵詈雑言やブーイングを浴びることだってある。でも、人の心が動く瞬間を目の当たりにしたとき、目の前で「これ面白いね!」って言われたとき、すべて報われる感じが僕はするんですよね。
 広告に限らず「表現する」という作業は、どんな職種にも必要とされることです。その楽しさを多くの人に味わってもらいたい。オーディエンスでいるより、表現者の側にいる方がゼッタイに面白いですから!
 ( * )世界最大級の広告祭。毎年6月、フランス・カンヌで開催される

大岩先生の最近の研究について、お聞かせください。

 専門は広告論です。60年代のアメリカの広告、あるいは江戸時代の日本の広告。そうした過去の広告の歴史にもっと精通したいとも思っていますが、2018年の今、実際に通用する広告とはなにか。現場で培った経験をベースにそれらを体系化していきたいと思っています。
 例えば、広告と広報は今までは異なった概念として扱われてきましたが、現在その境は限りなくシームレスになりつつあります。戦略PRなんて言葉、みなさんもよく耳にしますよね。ブランドの考え方も大きく変わってきています。広告のイメージだけでこれからのブランドは成立しない。社会やコミュニティに内在しているユーザーの意見や主張といかに共鳴できる表現がつくれるか。そして、いかに具体的なアクションが起こせるか。ナラティブな物語を紡ぎ出すコミュニケーションデザインが必要になってきています。
 また、最近はメディアアートをコミュニケーションメディアとして、あるいはイノベーション装置として捉え直す研究も始めています。メディアアートこそ「現在のメディアのコンディションを疑い、コミュニケーション分野においてイノベーションを引き起こす行為」だと思っているので。ということで、広告論、コミュニケーションデザイン論、メディアアート論と、研究分野もかなり欲張ってしまっています。これから、心してそれぞれの研究の解像度を上げていこうと思っています!

大岩先生は、「モラトリアム推奨派」だとか。

 あらかじめ強調しておきますが、大岩ゼミ生の就職率はとても良かったんですよ(笑)。そのうえであえて言うと、20歳を少し過ぎたばかりの年齢で「自分はこんな人間だ」「将来は○○をしよう」とあまりに急いで自分のindividualを規定してしまうのはもったいないというか、少し恐ろしい気もします。平野啓一郎さんも言っていますが、もっとたくさんの自分の中の分人(dividuals)づくりをすべきです。
 この時期こそ、なるべく多くのリベラルアーツに首を突っ込んで、可能性の幅を広げてほしい。時間と環境が許すなら、是非、海外での経験を積むこともお勧めします。この先重視されるのは、何をどれだけ解像度を上げて考え、それをどれだけたくさん実績として残せるかだと思う。自分を自由にして色々な角度からものを考えられる人、そして表現することをいつも面白がれる人であってほしいなと願っています。

Students'VOICE大岩ゼミで学ぶ学生の声

浅見 麦さん(コミュニケーション学部3年)
大岩先生は、物腰柔らかで優しい方ですが、本心で何を考えているのか我々には分かりません(笑)。企画書を出すと、何もかも見透かされているのかと思うような鋭い指摘を受けたり、自分でも無自覚だった感覚に気付かされたり。大岩先生には常に「試されている」ような、「化かされている」ような......それが面白いんですよね。
宮下颯人さん(コミュニケーション学部3年)
昨年度、「バレンタインをテーマにしたCMを作る」という課題で、僕は「逆バレンタイン」を描いたドラマ仕立ての作品を撮りました。割と自信があったんですが、ほかの皆の作品もすごくて「もっと頑張ろう...」ってしみじみ思いましたね(笑)。このゼミは、企画を立てたりキャッチコピーを考えたりする課題が多いので、毎週ワクワクします。

※学年は取材当時のものです。

JR広告 連動企画ゼミする東経大
教授インタビュー