もしあなたが、突然逮捕されたり家宅捜索されたりしたら、どうしますか? しかも身に覚えのない罪で、何の証拠もなかったのだとしたら? ──こんな国ではとても安心して暮らせませんね。そこで、犯罪行為とその刑罰の内容を「刑法」が、刑罰を科して執行するまでの具体的な手続きを「刑事訴訟法」が、それぞれ定めているのです。
刑事訴訟法には、捜査から起訴、裁判、刑の執行に至るまで、刑事手続の各段階で誰が何をできるか、記されています。刑事手続は、人の自由や財産、時に生命までも奪う、非常に重大な人権の制約をもたらすものです。だからこそ、国の最高法規である日本国憲法でも、31条から40条、実に10カ条を刑事法に関する規定が占めています。適正な刑事手続によって人権を守りつつ事案の真実を解明すること。これが刑事訴訟法の大切な役割なのです。
日本の刑事訴訟法は、憲法の理念を汲んだ規定ですが、実際の運用はそのような理念とは異なることもあるのが実情です。いまは、本来のあるべき姿に向かって一歩ずつ改革している過程といえるでしょう。
例えば「録音・録画」の導入も、そんな改革の一つです。逮捕後最長23日間、時に朝から晩まで外部との連絡を遮断して行われる厳しい取調べは、虚偽の自白、ひいては冤罪を生む一因といわれていました。取調べ偏重がもたらした幾つかの事件も契機となり、被疑者の取調べの過程の可視化、すなわち「録音・録画」制度を導入した改正法が2016年に成立しています。
また、かつて私が弁護を担当したある事案を機に、「悪性格証拠」についての研究も進めています。これは、被告人の「前科」が"被告人が犯人である"という認定に誤った推認を引き起こすのではないかという問題意識によるものです。法曹のプロではない裁判員による裁判でも論理的な判断がなされるのか。どんな前科がどんな立証のための根拠として認められるべきか。今後も向き合い続けていきたい分野です。
何に問題意識を持つか。何を調べ、ゼミで何を議論するか。私のゼミでは、そういった研究テーマの設定から学生たちに任せています。例えば、「憲法との関わり」を取り上げたグループは、憲法の理念が刑事訴訟法でどんな規定になり、それが具体的な事案においてどう機能しているかについて議論を深め、「違法収集証拠排除法則」について興味を持ったグループは、違法な捜査活動があった場合にそこで得られた証拠がどう扱われるべきかを調べる、といった具合です。
刑事訴訟法の学びを深めることを通して、主権者として、そして未来を担う世代として「自分たちの社会がどうあるべきか」を真剣に考えてもらえればと思っています。そして、ゼミで鍛えた「問題を発見する力」は、将来どんな分野に進んでも、この社会をより良いものにしていくエネルギーになると信じています。
「面白い学び」をどんどん自分で見つけてください。これまでの勉強は、どちらかというと押し付けられるもの、詰め込むものに近かったかもしれません。でも本当の勉強はそうではありません。社会のすべての事象が勉強や研究の対象であり、大学という場において、その扉は常に皆さんのために開かれています。目や耳を開けて、自分の頭で考えることを続けてください。
もちろん、どんな学びにも(その後の仕事にも)苦労や壁はありますが、そんな中でも常に楽しみを見出す前向きな姿勢を忘れないでください。そんな皆さんの成長を、大学という場で手助けできるのを楽しみにしています。
※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。