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2018年度 第44回 コミュニケーション学部 佐々木 裕一 教授

「情報の偏食」が続くと考える体力が奪われます。コミュニケーション学部 佐々木 裕一 教授 「情報の偏食」が続くと考える体力が奪われます。コミュニケーション学部 佐々木 裕一 教授

SASAKI Yuichi
東京経済大学 コミュニケーション学部教授
一橋大学社会学部卒業。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了。電通、アーサー・D・リトル・ジャパン、NTTデータ経営研究所勤務等を経て、現職。主な担当科目は、ソーシャルメディア論、ウェブ・マーケティング論、情報産業論。近著に『ソーシャルメディア四半世紀 情報資本主義に飲み込まれる時間とコンテンツ』、『ツイッターの心理学 情報環境と利用者行動』(共著)

FacebookやTwitterの、何が問題なのでしょう?

 皆さんは、Facebookのニュースフィードに表示されるコンテンツが、あなた自身の好みに合わせて選別されていると気づいているでしょうか。これは、過去の閲覧データと類似・関連した情報を選別するアルゴリズムによるもので、Google等の検索結果の表示順にも影響しています。つまり、自分にとって"心地よい情報"ばかり目に入る状況が、いつの間にか作られているというわけです。このような偏った情報への接触は人の信念を強化し、意見の極化や排他主義につながるという可能性が指摘されています。事実、いま国内外のあちらこちらで分断が進んでいますね。専門家間でも、それがSNSのせいかについては意見は様々ですが、情報のフィルタリングがはらむリスクは決して小さくないと僕は考えています。
 ほかにも例えば、Twitterを情報過多だと感じる人はいませんか。膨大な情報、それも他愛もない会話と時事ニュースが混在して流れ込むような状況下で、果たして人は理性的に判断したり、じっくり思考したり、その上で転送できるのでしょうか。こういった人間の認知能力や脳への影響という点においても、少なからぬ危機感を持っています。

今日のコミュニケーション環境に、ずいぶん懐疑的ですね。

 僕は長年、インターネットやソーシャルメディアが世の中にどのような影響を及ぼすのか、多方面から実務も経験した上で研究してきました。例えば、電子コミュニケーションを企業に導入すると、企業組織やビジネスモデル、産業構造はどう変わるのか。対面のコミュニケーションとの違いは。ソーシャルメディアによるオープンイノベーションは有意義なのか、等々。プラスの面ももちろんありますが、2010年代以降のスマホとSNSの利用状況には、やはり悲観してしまう点が多いですね。他人の関心をひくために、大事な情報よりも娯楽性の高い情報がどうしても多く流通する、しかも、その状況を作り出している仕組みに無自覚である、という世の中はいかがなものでしょう。...といった話ばかりしていると、学生が暗い顔になってしまうのですけどね(笑)。

論文執筆の力は、どのように鍛えるのですか。

 まず2年生は、Googleのオンライン教材「デジタルワークショップ」等を使いながら、インターネットの特性やデジタルマーケティングの基礎を学びます。ただその手法が普通になっているネット環境をどう考えるかということにも力点を置いています。またロジックツリーを用いて「論理的に考える」「発想を広げる」力を身につけ、文献を要約する訓練も行います。
 次々と課題を与える2年生から一転、「さあ何を研究したいの? 自分で考えてね」となるのが3年生です。論文のテーマと仮説、調査方法をゼミで発表し、何度も練り直した後、インタビュー調査等を経て、1万字の論文に仕上げます。身の回りで起きていることを面白がったり、その現象の背景を自分の頭で考えたりできない人には、僕のゼミは苦しく感じるかもしれませんね。

学生の論文テーマで、印象深いものは?

 今年度のゼミ生にセミプロのバンドマンがいるのですが、彼の目の付けどころは新鮮でした。それは、YouTube等で誰もが自分の音楽を発信できるようになった一方で、実は音楽業界におけるコネ重視の傾向は強まっているのではないか、というもの。まだ論文制作は始まったばかりですが、インターネットがもたらすパラドキシカルな帰結が実に面白く、その仮説には感心しました。
 ちなみに、2016・2017年度のコミュニケーション学部の最優秀卒業論文には、いずれも佐々木ゼミ生の作品が選出されました。中身は、東北での実地調査も経てまとめた「まちづくりを目的としたサイクルイベントに関する考察」と、NHK・民放のニュース番組視聴行動を過去と現在で比較した「メディアの娯楽化」でした。今年度の学生の奮闘も期待しています。

佐々木ゼミは「厳しい」と評判のようですが(笑)。

 かつて僕がいた広告や経営コンサルティングの業界は、課題ごとにゼロベースでものを考え新たな成果を生み出すことが仕事でした。その影響か、論文でもプレゼンテーションでも、「ものを作る」ことへの手抜きは絶対に許さないですね。何となくその場をごまかしてやり過ごす、みたいな態度も絶対ダメ。でもそうやって鍛える分、人生や社会に立ち向かう力は確実につくと思います。卒業後、東経大の授業にゲスト講師として呼ばれるOB・OGも多く頼もしいですね。大事なのは「できるか・できないか」ではなく「やるか・やらないか」です。自分を信じて自分を鍛える、有意義な学生生活を送ってほしいと願っています。

Students'VOICE佐々木ゼミで学ぶ学生の声

佐藤将信さん(コミュニケーション学部4年)
卒業後は、第一志望だったSNSマーケティングを専門とする企業で働きます。将来の進路を検討する際も、佐々木先生には、親身に相談にのっていただきました。ここはコミュニケーション学部でもトップクラスの厳しいゼミだと思いますが、自分を高めたい人には最高の環境ですよ!
村上瑞希さん(コミュニケーション学部2年)
いま「デジタルワークショップ」で学んでいるところですが、広告や検索結果の表示の仕組みなどを知ることで、WEBサイトを見る目が変わってきました。佐々木先生の指導は厳しいですが、学生のことを思って言ってくださっていることが分かるので、ついていこうという気持ちになります。

※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。