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東京経済大学ニュース

[ 2008.01.02 ]
押井守監督から東京経済大学にメッセージ! 08年4月からコミュニケーション学部で教鞭をとるわけ

東京経済大学コミュニケーション学部
客員教授に就任予定


世界が注目する映像クリエイター、押井守監督から、2007年12月19日、本学にメッセージが届きました。

2008年4月から、東京経済大学コミュニケーション学部の客員教授に就任、「メディア制作ワークショップ」を担当される予定です。貴重な押井監督の言葉、ご一読ください!
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2008年春、客員教授就任によせて     監督 押井 守



数年前に自らの人生が半世紀を経過し、四捨五入すればやや強引ながらも還暦──そういう齢になりました。生きた年数がこのぐらいに達すると、仕事に関しても私的な面に於いても、好きなことを好きなようにやって過ごしたいと思うようになります。やるべきことをやったからとか人生を達観したとか、そんな大それたことからではなく、たぶん、結婚や仕事、子供の独立といった、人間が生きていくうえでの経過点をひとつずつ越えたあとに自然に沸き立つようなものなのかもしれません。


好きなことを好きなようにやると言えば、高校や大学の頃もそうだったじゃないかと僕を知る人からは揶揄されそうですが、若い頃のそれが、時代への抵抗や未熟さなど勢いで生まれたものなのに対し、今のそれは、周囲や自分自身、あるいは人生の前方を見据えた中で派生してくるもので、まったく別の意味や意義を持っています。好きなことをすると言いながらも、同時に、生きることの難しさも痛感し始めていて、これから人生を知ることになる若い人たちに何か伝えなければいけないのではないか、と考えるようにもなりました。



新作の制作発表では「映画監督として、今を生きる若い人たちに向けて何か伝えることがあるのではないかと考え、作品のテーマにその思いを込めた」とコメントしましたし、制作の現場では、次代を担う若手や新人たちが力を発揮できる場を用意できないか、と意識するようにもなりました。この歳になったからこそ、若い人のことを考えるようになったのだと思います。

僕も大学時代には好き放題に暮らしていました。当時お決まりの貧乏大学生で、教科書まで売り飛ばして、下宿で本を読みまくり、夜になると映画館に行って……と、親や教師の監視から解放された自由な時間を堪能していました。

そういう生活を送った大学という場で、さらには教育学部に籍を置いていた僕が図らずも今回は教鞭を執ることになり、さて何を教えたものか、と思案しているところです。



具体的な講義内容については今もって構想中ですが、映画という表現を介して「動機」というものについて教えることになるでしょう。

「動機」とは何か―。

大学に入って暇を持て余していた頃の僕は、観て撮って脚本書いての映画三昧の日々を送っていましたが、二年生の頃には、ごく自然に映画監督になるのだと意識していました。

しかし、映画監督になると心に決めたところで映画青年はただの映画青年でしかなく、学生以外の何者でもありません。そして何者でもない自分に気づいた時、無性に何者かになりたくなりました。社会に於ける自分の存在価値や評価といったものが定まった時にはじめて人は何者かになるわけで、それは同時に大人になることを指し、そして実は何者かにならなければ人生もまた始まりません。どうやったら何者かになれるか、どうやったら生きられるか、あれこれ想像して過ごすことより、まずは大人になって、とりあえず生きてみることが大事なのです。



若い人は個性的であるべきだ、などと言われることが多いようですが、それはそう信じさせておいたほうが世の中にとって都合がいいからであって、実際に仕事を始めれば個性なんて誰も重視してないことを痛感させられます。映画という仕事も同じです。個性、いわゆる作家性などと言われるものは、きちんと一本の映画を作った、その先に存在するものであって、結果的として作品に表出するものなのです。

僕もそうでしたが、若い頃はさまざまな事柄、とりわけ自分自身に対して幻想を抱きがちです。夢を持つことは大切ですが、幻想という厄介なものから自分を解放しなければ、個性が尊重される場などほぼ皆無である社会で悩みが増すばかりです。幻想を捨てるなんて、そんなの夢も希望もないじゃないか、と思われるかもしれませんが、夢や希望を持つためにこそ幻想を捨てるべきなのです。

誤解を恐れずに言うなら、学生にとって勉強することそれ自体は、さほど重要なことではありません。

重要なのは、何者でもない自分を知り、社会に出て生きるための「動機」、大人になるための「動機」を見出すことなのです。

人間として半世紀を、映画監督として20有余年を生きた人間の、実戦訓に満ちた授業をお楽しみに。





(c)2004 士郎正宗/講談社・IG, ITNDDTD


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