東京経済大学

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学長メッセージ

入学式 式辞

入学式 式辞

東京経済大学に入学された皆さん、おめでとうございます。東京経済大学の教職員を代表しましてお祝いを申し上げます。

皆さんの多くは新しい大学生活に思いを馳せ、これからいろんなことに挑戦してみたいと思っていることでしょう。同時に、今後皆さんを待ち受ける世界について不安な気持ちを抱いている人も多くいることでしょう。

たしかに、経済のグローバル化と急速なデジタル革命の進行が世界各国で不平等を拡大させ、多くの国々で左右のポピュリズムを生み、世界資本主義の中心国アメリカでは自由貿易の制限と移民規制を公約に掲げたドナルド・トランプ氏が大統領に選出されました。このような世界の大きな流れのなかで、今や貿易戦争が現実化し、国内外のシステムは混乱し、不確実性が著しく高まっています。

このような時代環境のなかで、皆さんが不安に思う気持ちは十分に理解できます。しかし、このような時代であるからこそ、偉大な経済学者ケインズが「わが孫たちの経済的可能性」という論文で示したように、短期の時代動向に一喜一憂することなく長期の歴史的展望のなかで今という時代を見る姿勢が必要なのです。ケインズは、1930年という世界中を覆う不況の真最中に、左右の悲観主義を排して、今必要なことは「自分自身を短期的な見方から解き放ち、未来に飛翔すること」であると確信し、長い目で見れば人類が経済的課題を解決しつつあることを確かな学問的洞察力でもって明らかにしました。

もちろん、このケインズの予言がすべて正しかったわけではありません。しかし、重要なことは物事を長期的視点、歴史的視点から見るということです。

振り返ってみれば、本学の歩みも決して平たんではありませんでした。

1900年に都心赤坂の地で大倉商業学校としてスタートした本学は、20年後には高等商業学校に昇格し、関東大震災で大きな打撃を受けたものの、多くの入学志願者と高い就職率を誇る私学高商の名門校として順調に発展してきました。

しかしこのような順調な発展は、戦争と敗戦を契機に一転します。戦時中に大倉経済専門学校へと名称変更した本学は敗戦間際に米軍による空襲を受け、校舎の大半を焼失します。その後、大倉経済専門学校はいま私たちが立っている国分寺の大倉系企業の工場跡地に移転し、総勢わずかに600名の教職員と学生でもって再出発を図ることになります。その頃の本学の様子を『東京経済大学80年史』は「さながら大海のまっただ中で荒波にもまれる小舟のようだった」と表現しています。というのは、創立以来基金として保有された公社債は敗戦とその後のインフレによってほとんど無価値になり、もはや基金として用をなさなくなり、しかも財閥解体の影響で創立者大倉家の支援を期待できなくなったからです。

しかし、このような困難な中、本学は自立再建の方向を目指します。国分寺キャンパスは外見上はみすぼらしい姿でありましたが、やがて生き生きとした学園らしい雰囲気に満たされるようになります。一日中、キャンパスのどこかで読書会や研究会がもたれ、学園の再建が論議され、移転後2年目を迎えるころには、学友会が再組織され、文化系体育会系の諸団体が相次いで設立されるようになりました。教授会もまた、教授陣の充実をはかり、大学昇格への準備を進め、大倉家から離れたあとの学校運営をどのように組織するかという問題に真剣に取り組みはじめます。

大学昇格はこの時期の教職員と学生、そして卒業生の一致した目標でした。大学昇格に向けた全学の一致協力ぶりを何よりも象徴的に示したのは学生による寄付金活動です。1948年6月の学生大会は、全学生が夏季休暇中にアルバイトや募金活動によって一人当たり3,000円をつくりだして大学昇格のための資金として寄付することを決議いたします。教授会は学生がアルバイトを行うために夏季休暇の3カ月間延長を承認し、さらに募金活動への協力よって学生の意志にこたえ、このようにして当時としては高額の目標が達成されました。

イギリスでは、困難に陥った時、あきらめずに立ち向かう不屈の精神のことを「ダンケルクスピリット」と呼びます。この言葉は、1940年5月、ドイツ軍によって完全包囲され、絶望的な状況にあった何十万人というイギリス兵士とフランス兵士をフランスの港町ダンケルクからイギリス本国に撤退させる際に、民間人を含む何千人ものボランティアの人たちが生命の危険を顧みず兵士の避難を手伝った勇気ある行動に因んで生まれました。事実、イギリスはこの「ダンケルク精神」を合言葉としてドイツ軍によるイギリス本土空爆にも耐え、総力戦を戦いぬきました。

私は、敗戦後の国分寺キャンパス移転後の1948年6月の学生大会における学生決議を頂点とする学生、教職員、卒業生の学園の再建と大学昇格に向けた一致団結ぶりを「東経大のダンケルク精神」、「東経大スピリット」と名付けたいと考えています。そして、新入生の皆さんにも70年前の先輩たちの愛校心あふれる行動とスピリットを心に刻んでほしいと願っています。

学生、教職員、卒業生のこのような努力が実を結び、1949年4月に本学は新制の東京経済大学としてスタートします。専任教員17名、職員23名、学生416名のまことに小さな所帯でしたが、そこには清新の気がみなぎっていました。もちろん、その後本学は幾多の苦難に直面しますが、他のどの大学よりも「大学らしい大学」となることを目標にして今日までやってきました。「大学らしい大学」の内容を一言で述べると、自由な学問研究を支えとして質の高い教育を行うことであり、この理念を透明性の高い大学の民主的運営によってしっかりと支えることです。

皆さんは、今日から自由な学問研究を尊重してきた「自由の学府」東京経済大学で学ぶことになります。確かな知識を身につけ学問の基礎を学ぶうえで正課の授業が大切なことは言うまでもありませんが、皆さんの行動力、協調性と柔軟性、忍耐力と責任感を養ううえで課外活動がたいへん有効です。私は皆さんに心身を鍛える体育会系クラブや仲間とともに興味ある分野について打ち込める文化系サークルに積極的に参加されることを勧めます。

クラブ、サークル、そしてゼミやクラスで友人をつくり、いろんなことを語り合って下さい。

「友との語らい」は皆さんの人間的広がりと心の豊かさをつくります。

最後に私から一つお願いがあります。それは友人との語らいを楽しむ一方で、一人でいること、孤独を恐れないで欲しいということです。大岡信が名著『うたげと孤心』(1978年)で鮮やかに描き出したように、人が真の意味で創造性を発揮するには他者や人びととの集いが必要であると同時に、「孤心」に、すなわち自分一人の心に還る強い意志も必要なのです。一人でいることが寂しいと思ったときには、図書館に足を運び、本を読んでください。本もまた皆さんのかけがいのない友人になります。大学ではぜひ読書の習慣を身につけて下さい。読書もまた「友との語らい」と同様に皆さんの人間的広がりと心の豊かさをつくります。そして何よりも皆さんを真の意味で「自由な人間」にします。

皆さんは今日から私たちの仲間です。70年前の先輩たちの行動、それを支えた「東経大スピリット」を絶えず想起しながら、東京経済大学の新しい伝統を一緒につくっていきましょう。

2018年4月2日

学長 岡本英男

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