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福島についての2冊の本

開沼博『「福島」論』(青土社)
佐藤栄佐久『福島原発の真実』 (平凡社新書)

・僕にとって福島は、縁のある土地だった。義母のいるいわき市には毎年のように夏休みに出かけたし、子どもと一緒に海水浴をしたり、ハイキングをした。その義母が亡くなって今年で七回忌になる。ほかに知りあいはいないので縁遠くなっていたが、大地震が原因の原発事故が起きた。だから、津波の被害はもちろん、放射能の汚染が引き起こした問題には、人ごとではない気がして、ずっと関心を持ちつづけている。

fukusima1.jpg・僕がよく訪れていた頃の福島県知事は佐藤栄佐久で、1988年から知事を務めて2006年に収賄容疑で逮捕されて辞職している。僕は誰が知事なのかも関心がなかったのだが、原発事故の後に、彼がトラブルを隠す東電を批判して、プルサーマル計画にずっと反対してきたことを知った。収賄容疑は二審でも有罪の判決が出たが、一体何が罪なのかわからない内容で、原発政策を勧める上で邪魔な知事を辞めさせるための策略だったことは明白のようだ。その点を含め、『福島原発の真実』 には、知事就任以来、原発に対してとってきた方針と政府や東電とのやりとりが詳細に語られている。

・佐藤知事は自民党の参議院議員からの転職で、最初は中央とのパイプを持った知事として仕事をした。原発についても、福島の経済を活性化させるために必要なものという姿勢をとってきた。それを反転させたのは2000年のことだ。それ以後知事は福島県のことだけではなく、原発をかかえる他県の知事をリードして、その危険性を訴え、トラブル隠しをする電力会社を批判し続けてきた。

fukusima2.jpg・福島県に原発ができたのには、ここがかつて常磐炭鉱という石炭の生産地をかかえていて、閉山後の経済の落ち込みからの脱却を願っていたことがある。あるいは、福島県には多くの水力発電所があるが、それらは20世紀の初頭から、主に東京への電力供給のために作られてきたこともある。そして、事故を起こした福島原発の地は、終戦直後に堤康次郎が広大な土地の払い下げを受けて塩田事業をした跡地に作られたものである。

・開沼博の『「フクシマ」論』は現役の大学院生が修士論文として書いたものである。そのメインテーマは副題にある「原子力村はなぜ生まれたのか」で、大地震と原発事故が起こる直前に書き上げられている。まるで事故の予言書であるかのようにして一時期話題になったが、内容はあくまで「原子力村」にある。それは一般的には政治家、官僚、電力会社、原発関連企業、マスメディア、そして大学研究者たちによって構成された閉じた組織のことを指すことばだが、この本ではむしろ、現実に原発のある地で暮らす人びとと県や市や町、そして村の政治家や役人、そして建設や土木工事などの地元企業が住人となる「村」に焦点が当てられている。

・中央にあって「世界有数の原子力技術の確立」を望み、その卓越性を誇示し、安全神話を作りあげてきた「ムラ」と、経済成長から取り残され、過疎化する地域の維持や発展のために原発の設置を容認した「ムラ」は、共に原子力に大きな「夢を見ていた」ことでは共通している。そして両者が抱いた「どちらの夢も幻想であったことが、時間の経過とともにますます明らかになってきた」。にもかかわらず、どちらも、その夢を捨てることができなかった。


・それは、一方では、地方の「反中央」であるゆえの自発的な服従の形成のなかから、他方では、貧しいムラの「都会」への欲望のなかから可能になった。その生産により、原子力ムラはaddictionalな自己の再生産をはじめることになった。そして、ちょうど同じ時期に、中央の原子力に関わる各アクターも閉鎖性・硬直性をもった<原子力ムラ>と呼べる集団を確立する。結果としてこの二つの原子力ムラが、原子力推進に抵抗する勢力もうまくからめとる形で、現在の「原子力推進体制」を確立する共鳴をはじめたのだった。(p.298)

・鋭い指摘だと思う。しかし、一見新しいもの、先端的なことに関わることが、前近代的なムラ組織によって支えられるという構造は、たとえば新聞とテレビが一体となった電波村にもあてはまるし、企業や学校、そして地域といったさまざまな集団の中にも容易に見ることができる、きわめて日本的な特徴である。ここまで危険性が露呈された原発をストップさせることがなぜできないのか、という当たり前の疑問に対する答えは、たぶん「ムラ」のなかにある。このような仕組みをあらためるのは、放射能に汚染された土地を除染するのと同じぐらい難しいことなのかもしれないと思う。

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2011年10月17日 07:09に投稿されたエントリーのページです。

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