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オリンピック批判の本

アンドリュー・ジンバリスト『オリンピック経済幻想論』ブックマン社
小笠原博毅・山本敦久編著『反東京オリンピック宣言』航思社
小川勝『東京オリンピック』集英社新書

olympic2.jpg・リオ五輪が終わって,次はいよいよ東京だという世論誘導が目立ちはじめている。けれどもまた、五輪にまつわる醜聞や不始末が続いている。『反東京オリンピック宣言』はスポーツやメディアをはじめ、都市や社会政策、科学技術、あるいは文芸批評を専門にする人たち16名の、オリンピック反対の声明文を集めたものである。ここには住処を追われたホームレスとして発言する人の文章もある。

・それぞれが注目する点は、タイトルやサブタイトルを列挙しただけでも多様だ。「スポーツはもはやオリンピックを必要としない」「災害資本主義の只中での忘却への圧力」「貧富の戦争が始まる」「メガ・イヴェントはメディアの祝福をうけながら空転する」「『リップ・サービス』としてのナショナリズム」等々。短文の寄せ集めだから読みごたえがあるとは言えないが、書かれている主張には僕も賛同する。

・3.11の復興が進んでいないし,福島原発は「アンダー・コントロール」どころか混迷状態だ。主会場を初めとした競技施設にまつわる不手際や醜聞にはうんざりしているし、安倍マリオには反吐が出る思いだった。最近のオリンピックにはどこでも、かなり強い反対運動が伴っていたから、本書やここに書かれている主張が多くの賛同者を得て,反対運動に盛り上がればいいのにと思う。しかしマス・メディアは例によって、そんな意見をほとんど取り上げない。何しろ読者や視聴者を増やす絶好の機会なのだから。

olympic3.jpg・『オリンピック経済幻想論』には「2020年東京五輪で日本が失うもの」という副題がついている。しかし内容は主に、商業主義に変わったロス五輪以降の各大会についての経済的な結果についての分析である。ロス五輪は、主催都市や支援する国家に多額の借金を残したモントリオールの失敗を是正するために、商業主義を前面に出して準備し開催した最初の大会だった。そこから、開催地として立候補する都市が増え、種目の増加や開・閉会式の派手さが目立つようになった。あるいは都市の再開発や、グローバル化に乗った観光都市を目指す目的が強まり、また国家が前面に出て,国威発揚といった特徴も強くなった。

・しかし、本書が指摘しているように、オリンピックを開催して残ったのは、「経済効果」ではなく、やっぱり借金であったり経済不況であったのである。唯一の例外として取り上げられているバルセロナは、開催後に世界的な観光都市として発展した。ただし、著者はそうなる資源が眠っていた例外的なケースに過ぎないという。同様に資源としては十分にあったアテネは国家の財政が破綻する状況に追い込まれたし、リオは開催前から経済成長が頓挫し、国政問題が噴出した。北京とソチは国威発揚を目的に巨額な費用を使ったが、それに伴う効果がもたらされたわけではなかった。ロンドンは市東部の再開発を目的にして、それなりの成功がもたらされたと言われている。しかし、かかった費用は当初の予算を大幅に超えたし、再開発によって貧民層が追い出されるという結果が起きている。

olympic1.jpg・『東京オリンピック』が問うのは,そもそも「オリンピック憲章」に書かれていることと、大会の現状があまりに乖離しすぎている点にある。オリンピックは都市が開催するものであって,国家が表に出るものではない。だからメダルを国単位で争う最近の風潮は憲章から逸脱しているし、そもそも、栄誉は参加し,勝利した個人に与えられるべきものであって、国の代表としてではない。憲章に従えば、表彰式で国旗を掲げ国歌を演奏することもすべきでないし、オリンピックに経済効果など求めてはいけないのである。

・このように原点に立ち返ってオリンピックの現状を見れば,その矛盾点の多さや大きさは明らかである。しかももたらされると期待されてきた経済効果が幻想に過ぎなかったこともはっきりしてしまっている。東京オリンピックは沈滞している経済の活性化や東京の再開発を目的にして実施されようとしている。しかし、そのプロセスはここまでお粗末なものだし、経済も活性化どころか大不況を招くとさえ予測されている。その点は2年後の平昌(韓国)でも同様のようだ。

・オリンピックは今、明らかに大きな曲がり角に来ている。一度は開催地に立候補をしても,反対にあって辞退する都市が続出しているし、テロに伴う警護費用の拡大や、安全性に対する不安などで,開催地が見つからない状況が現実化している。実際、2022年の冬季五輪では立候補した都市が次々辞退をして、わずか2都市が残り、北京に決定したといういきさつがある。僕は今からでも遅くないから、東京オリンピックは辞退すべきだと思う。オリンピックのあり方は今、根本から見直す必要がある。この3冊を読んで,そんな気持ちをさらに強くした。

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2016年10月10日 07:33に投稿されたエントリーのページです。

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