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大谷選手の活躍の裏で

ohtani2.jpg・今年のメジャーリーグは、大谷選手の活躍でにぎやかです。暗い話が多い中で、メディアでは彼のホームランが清涼剤のように扱われています。僕もほとんど毎試合見て、またホームラン撃った、三振取ったと興奮しています。しかし、彼が所属するエンジェルスというチームについては、初年度から疑問を持ち続けていて、最近特に問題だと思っていることがあります。

・エンジェルスはトラウトのチームです。MLB最高の選手と言われ、毎年40億円を超える年俸をもらっています。これまでの成績を見れば、うなずける評価だと思います。けれども残念なことに、今年は5月中旬にけがをして前半戦の多くを欠場しました。エンジェルスには他にも高額年俸をもらっているのに、トラウト同様、ケガや故障で欠場する選手が大勢います。たとえば3塁手のアンソニー・レンドンは年俸31億円ですし、ジャスティン・アップトン外野手は27億円でした。ここにもう一人、アルバート・プーホルス一塁手の33億円をあげる必要があるでしょう。彼は途中で解雇されてドジャースに移りましたが、今年の年俸はエンジェルスが払っています。

・これらの選手に払っている年俸の総額は130億円ほどで、チームの年俸総額の70%近くを占めています。そして、エンジェルスは前半の試合の多くを、残り30%をもらう選手たちで戦ってきました。それをよくあったオーダーで見てみましょう。この先発野手の合計年俸は15億円ですから、トラウトはもちろんアップトン一人にも遠く及びません。このメンバーで5割を維持したのは驚きと言っていいでしょう。

1番 デビッド・フレッチャー:2.2億円
2番 大谷翔平:3.3億円
3番 ジャレッド・ウォルシュ:6500万円
4番 フィル・ゴスリン:6500万円
5番 マックス・スタッシ:1.8億円
6番 ホゼ・イグレシアス:3.8億円
7番 テイラー・ウォード:6500万円
8番 フアン・ラガレス:1.5億円
9番 ルイス・レンフィーフォ:6500万円

・実は同様のことは投手陣にも言えます。先発陣は大谷の影響もあって6人体制で、当初はディラン・バンディ(9.1億円)、ホセ・キンタナ(8.8億円)、アレックス・コブ(5.5億円)、アンドルー・ヒーニー(7.4億円)、グリフィン・キャニング(6500万円)、それに大谷でしたが、成績不振でバンディとキンタナが外れ、パトリック・サンドバルとホセ・スアレスの二人がマイナーから呼ばれて参加しました。この二人は6500万円以下かもしれません。

・もちろん、ケガや故障は選手につきものですから、仕方がないでしょう。けれどもエンジェルスにはプーホルス以来、おかしな契約が多すぎます。プーホルスは2012年から10年契約でエンジェルスに所属しました。1980年生まれで今年で40歳ですから、不良債券化することは予測できたはずです。実際ここ数年の成績は淋しいものでした。ところがエンジェルスは、2019年にトラウトと12年で総額4億2000万ドルの契約を結びました。この契約が満了する時、トラウトは40歳を超えますから、最後の数年は不良債券化するかもしれません。というより、今年のケガをみれば、既にその兆候が現れはじめていると言えるでしょう。昨年7年契約をしたレンドンも実力の過大評価であったことは言わずもがなだと思います。

・ドジャースやヤンキースに負けないお金を使っているのに、プレイオフには出られない弱いチームというのが、エンジェルスの現状です。この責任の多くはGMを始めとしたフロントにあるでしょう。実際去年までのGMは解雇されて、今シーズンからはペリー・ミナシアンに代わりました。しかし、彼が今シーズンに向けて新たに獲った選手の多くは故障や不振で活躍できていません。また、大谷選手は今年、2年で850万ドルの契約を結びましたが、当初はもっと低額で、大谷側の要求に対して、GMは年俸調停交渉も辞さないと強気でした。去年の不振が理由だと思いますから、今年の活躍はとんでもなく想定外のことだったでしょう。おそらく、今後の契約について頭を悩ましているはずです。

・メジャー・リーグのチームには高額になった選手は放出して、有望な若手と交換して育てるチームが少なくありません。低予算で毎年プレイオフに進出するチームとしては、タンパベイ・レイズやオークランド・アスレチックスが有名です。レイズは筒香選手を成績不振を理由に解雇しましたが、7.6億円という彼の年俸がこのチームの最高額でした。レイズは今年もア・リーグ東地区でボストン・レッドソックスと首位争いをして、金満球団のヤンキースを下位におとしめています。アスレチックスは、同じベイエリアにあるサンフランシスコ・ジャイアンツとは対照的に人気のない球団です。しかしGMだったビリー・ビーンが『マネー・ボール』で映画の主人公になったように、金を使わず、スター選手を作らずに強豪チームにすることを球団の方針にし続けています。

・エンジェルスはけが人続出のおかげで、マイナーから抜擢された若手選手が成長してきています。昨年の終盤に開花したジャレッド・ウォルシュ一塁手はその典型ですが、投手のサンドバルやスアレスなどがあげられます。他にも、今年メジャーで経験を積んで成長しそうな選手がいますし、マイナーには有望な選手も見受けられます。GMやマッドン監督はそんな状況を見据えて、選手を高額で引き抜くのではなく、若手を育てる方針に変更するでしょうか。解雇したプーホルス選手や来年で契約が切れるアップトン選手、それに不振の高額年俸の選手を放出すれば、大谷選手を始めとした若手選手の年俸アップに十分応えられるお金が用意できると思います。

・そんなチームに対して、大谷選手はどう考えているのでしょうか。彼とエンジェルスの契約は今年を含めて後3年です。その後もエンジェルスが引き止めようと思えば、今年のシーズンオフにも、高額な年俸で再契約をしようとするでしょう。自分が思う通りにやらせてくれるチームは多くはないですから、ずっとエンジェルスでと考えているかもしれません。あるいはワールドシリーズに出られるチームに移ろうとするでしょうか。いずれにしても、お金に左右されることだけはないように、と願うばかりです。


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2021年07月19日 05:38に投稿されたエントリーのページです。

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