CD & Concert Review

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●最近買ったCD

ガリシアのケルト
Carlos Núñez "Os amores libres"
"Brotherhood of Stars"
『絆~ガリシアからブルターニュへ』


chieftains3.jpg ケルト音楽は一般にはアイルランドのものだとされている。けれども、ケルト民族はかつてはヨーロッパ中にいて、今でもフランスのブルターニュやスペインのガリシア地方に住んでいる。文化的にも人類学的にも共通していないところがあるようだが、ガリシアには、アイルランドやスコットランドでよく使われているバグパイプとそっくりのガイタという楽器がある。カルロス・ニュネスはその奏者として第一人者と言われている。

ガリシアのケルトは「チーフタンズ」の『サンチアーゴ』で知った。巡礼の道順にしたがってバスクからガリシアまでの音楽を辿り、最後はポルトガル国境のビーゴの町にあるダブリンという名のパブでのライブで終わっている。収録曲にはポルトガルのファドもあり、キューバで録音されたものまで入っていた。アイリッシュと似ているけど、どこか少し違う。そんな音楽に興味を持った。
journal-134-3.jpg 『サンチアーゴ』にはライ・クーダーも参加している。キューバでの録音を主に担当したようだ。彼はアメリカにおけるカントリー音楽の大御所だが、アメリカ大陸で発展した音楽の採集と、そのルーツの探求に熱心でもある。キューバのミュージシャンを探して作った『ブエナビスタ・ソーシャル・クラブ』は大きな話題になったが、彼はまたチーフタンズと協力して、メキシコと米国にまたがる音楽を集めた『サン・パトリシオ』を作っている。僕がガリシアのケルトに興味を持ったのは、この2枚のアルバムがきっかけだった。で、ガリシアに行きたくなって、ガイタを演奏しているニュネスを聴くことにした。
nunez1.jpg 3枚買ったアルバムは、タイトルがそれぞれ、スペイン語、英語、そして日本語だった。"Os amores libres"はニュネスのガイタや笛、オカリナが主役だが、共演者は多彩で、フラメンコやファド、それにアイリッシュも入り交じっている。一曲(Danza da lúa en Santiago )だけジャクソン・ブラウンが歌っている。言い歌だが、残念ながら、その理由や歌詞はわからない。

"Brotherhood of Stars"はライ・クーダーやチーフタンズ。それにファド歌手のドゥルス・ポンテスも参加して、一層多彩な内容になっている。ガリシアという土地やそこに生きてきたケルトを感じさせるとは言えないが、混在が交響して聴き応えのあるアルバムになっている。
nunez2.jpg 曲の多くはガリシアに伝わるもののようだ。しかし、この2枚のアルバムに参加しているミュージシャンは、イベリア半島の北にあるアイルランド、ガリシアの東に位置するピレネー山脈周辺に住むバスク、ガリシアの南にあるポルトガル、そしてスペインやポルトガルが大航海時代に侵略して植民地にした南北アメリカ大陸から集まっている。
その意味では、ヨーロッパとアメリカ大陸の長い歴史を思い起こさせるような内容だと言える。ケルトがアイルランドやスコットランド、そしてガリシアにしか残っていないのは、ローマ帝国の支配が及ばなかったからだし、そのローマ帝国を衰退させたゲルマン民族の移動も、やっぱり大陸の果てまでは徹底しなかったからだ。
nunez3.jpg もう一枚の『絆~ガリシアからブルターニュへ』はフランスの北西部にある、やはりケルトの文化が残るブルターニュの音楽を集めたものである。ケルトの歴史を調べると、ここに住む人たちはイギリス本島から移ってきたようである。だからもともとの言語(ブルトン語)はウェールズに近いと言われている。
ブルターニュの伝統音楽はアイルランドやスコットランドの音楽復興に触発されて、1970年代頃から盛んになったようだ。ニュネスはそんなブルターニュとのつながりを、このアルバムで表現している。

グローバリゼーションの時代だが、音楽はとっくの昔からグローバルな存在だ。で、一つ一つがローカリティを意識して、自らのアイデンティティを模索し、表現している。ガリシアのケルトはまさに「グローカル」な音楽である。




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