Film & TV Review

Back Next



●最近見たテレビ



テレビ取材体験記


最近、取材をさせてくれないかという話が時々来る。専門分野のことについてはだいたい電話で、これは大学の研究室にかかってくる。家に来るのは、生活や暮らしの仕方についてのものだ。パートナーの陶芸についてなら大歓迎だが、僕のことならすべてお断り、ということにしているが、今回は話を聞いてみようかという気になった。理由はNHKの山梨ローカルで夕方の番組だったこと。もう一つは取材の理由がカヤックだったことだ。
電話の相手は若い女性のディレクターで、河口湖周辺に住んでいて、なにかおもしろい生活をしている人をさがしているという話。カヤックを買った「カントリーレイク」の紹介だという。レポーターがカヤックを河口湖で見つけて乗せてもらい、その後工房で陶芸を体験するというシナリオ。だいたい5分ぐらいのレポートになるということだった。落ち合う場所と時間をうち合わせた。
当日の天気は今にも雨が降り出しそう。シナリオではまず僕が河口湖でカヤックをしていなければならない。組み立てには30分ほどかかるから、撮影を始める1時間前には湖畔に出かけた。しばらく漕いでいると女性が二人、手を振っている。岸に近づけて、打ち合わせもなしに本番。レポーターの女性と話をして、オールの持ち方、漕ぎ方を教え、ライフジャケットをつけた後、さっそく、彼女を乗せて湖に出る。ところがしばらくすると雨。10分もたたずに岸に着けて慌てて片づけをはじめる。雨が激しくなって、撮影どころではないが、一応、パートナーが陶芸をやっていて体験ができるというやりとりをしなければならない。それをしないとわが家に移動という筋道がつけられない。びしょ濡れになって、片づけながらのやりとり。
わが家に着くと工房に案内して、パートナーを紹介する。ビデオは回っているが、ほとんど気にせずふるまう。うまく撮れているのかどうか、編集できるのかどうか。スタッフは若い女性二人だけで、ディレクターは今回が初仕事だという。レポーターもまだ新米だ。工房の撮影をする前に、二人でこれまでの反省とこれからの段取りを話しあっている。
聞けばディレクターはまだ23歳。短大を出てプロダクションに就職して、今年、NHK山梨放送局の下請け仕事に配属されたという。レポーターは26歳だが、再就職して今年から仕事をはじめたばかり。二人のやりとりを聞いているうちに、学生の実習活動を見守る教師になってしまった。
わずか5分のレポートのシナリオをどうするか。やりとりのなかでレポーターが聞くべき質問は何か。僕らが京都から引っ越してきたこと。僕が東京まで車で通勤していること。パートナーが陶芸をはじめた理由などを喋りながら、同時に彼女たちの話も聞く。ディレクターはその間、撮影をしたり、ビデオを止めて話に加わったり。陶芸体験もまねごとで簡単にすます予定だったのだが、体験教室の費用を払って、しっかり作ることになった。
昼過ぎにはじまった撮影は、結局6時間もかかった。終わったときには外は真っ暗。ずいぶん長い時間ビデオを撮ったようだが、それをどうやって5分にまとめるのだろうか。途中で独り言のように手順をつぶやいていた姿がおもしろかったが、また初々しくもみえた。レポーターも土遊びに夢中になると、喋ることを忘れる。それを指摘されて、やりなおし。端で見ていて何度も笑ってしまった。
テレビのワイドショーやバラエティ番組、あるいはニュースには短いビデオ・レポートが頻繁に登場する。それを作っているのは、彼女たちのような下請けのプロダクションに働く若い人たちだ。おもしろい仕事だとは思う。しかし、テレビに映るほど華やかではないし安直でもない。手間がかかるし、力もいる。ディレクターは細いからだでビデオカメラをまわしつづけ、三脚を持ち歩いた。レポーターもその場その場で臨機応変のやりとりを心がけなければならない。うまくいかなければやり直し。
結果的に長い時間つきあわされたが、取材されているとか映されているとかいう意識をほとんどもたずに、おもしろい体験をした。これは、何となくテレビに憧れる学生に話して聞かさなければ、と思う。もっとも、わが家ではNHKのUHFは見ることができない。


感想をどうぞ