柴内康文@東京経済大学

Y. Shibanai@Tokyo Keizai Univ.

研究関心と現在のテーマ

1)中心となる研究関心
ごく大まかに言えば、これまでインターネット等のメディア・コミュニケーションが社会や文化にどのような影響を与える可能性があるのか、に関する研究に従事してきた。わかったようなわからないような言葉で一般向きに短く書けば、主に「インターネットの社会学/心理学」になるかもしれない。

(ここからは背景としての自伝) メディアを介したコミュニケーションへの関心は、幼少期へとさかのぼるのだろう。携帯なき時代、なぜかラジオやトランシーバーなどは大好きだったし、よくハンダ付け工作もしていた。モールス信号を送受信できる無線資格も、「電気通信術」というすごい名前の実技科目のある国家試験を受験して持っている(耳から入るただのトーン音が、ペンを通じて意味のある文章に変換されるという身体訓練・経験は、それは驚くべきものだった)。パソコンも黎明期からいじっていた。世代と趣味の関係からすると、1970年代生まれとしては趣味ががちょっとずれていて、生まれてくる時代が明らかに遅かった。普通は理工系に進むのかもしれないが、人間存在への関心もやみがたく、つい文学部に進学。ただし、人間関係やコミュニケーションは生来ずっと得意ではない。心理学をやると、自分が苦手に思っていることを研究テーマに選びやすいという。そんなことで、コミュニケーションと社会、そしてメディアや、広くは科学技術の問題が、自分の関心の中核を占めることとなった。 (自伝終了)

 研究者としては、パソコン通信を通じてどのような情報共有が実現されるのか、「ROM」(Read Only Member)と呼ばれるような書き込みを読むだけのフリーライダー的存在がしばしば問題視されている状況で、この情報共有の場が持続的に発展する、マイクロ-マクロをつなぐ条件は何か、ということが研究の出発点だった(柴内, 1997a,2001a, 2003a)。それ以来、これまで以下に分類するようないくつかの形でメディアと社会(関係)の問題にアプローチしている。

a)社会関係資本とメディア  社会・集団レベル、また個人レベルで保有される人間関係とそれがもたらす資源、またそれに連動する信頼・互酬性規範の蓄積を資本として捉える議論群を「社会関係資本」(Social Capital, SC)論と呼び、理論、また実践的側面から近年大きな関心を集めてきた。SC論の重要文献の一つであるPutnam(2000)の単独訳を刊行したことにより、SCと地域社会、またインターネット等のコミュニケーションメディアを含めたメディアとSCの涵養の関連について検討するようになった。この問題についてのデータによる検討としては柴内(2007, 2009a, 2010)などがあり、またレビューとして柴内(2011a)、一般向けの記述として柴内(2006, 2009b)などがある。このテーマに関しては、地方自治体への協力や各種講演も行なってきた。

b)メディア社会のシミュレーション  メディアは人々を結び合わせるのか、それとも分断させるのか。インターネット時代にはさまざまな形で問われるようになったこの問題について、エージェント・ベースド・モデリングと呼ばれる、コンピュータプログラムを通じて人工社会を作り、その中にメディア機構を組み込むことで観察的な実験を行うという手法でいくつかの知見を生み出してきた。特に、強力なマスメディアは社会を画一的に統合するわけではない、ということを見出したShibanai et al.(2001)はこの種のアプローチとしてはかなり早期に行われたものであり、現在に至るまで自分の業績の中でも引用頻度が最も多い。諸外国の研究者による複数の発展的追試でこの知見も安定的に再現されている。他に関連するものとして柴内(2003b)などがある。最近は休止中のテーマだが、国際誌への査読協力なども行っている。

c)インターネットと文化的インパクト  インターネットがいかなる文化的インパクトを各領域に対して持ちうるのかに関して、これまで世論、広告、通信教育、ソフトパワーなどの領域で行われたする比較メディア論的な領域横断型の共同研究プロジェクトに参加し、学際的な検討を行ってきた(柴内, 2003cd, 2008, 2012)。

d)その他のテーマ  まず、上記のような議論を展開するためには、メディアコミュニケーションの特徴をめぐる社会学・心理学的知見について理解している必要があるため、このような問題についての概説的議論は研究領域の発展にあわせ、折に触れて執筆しており(柴内, 1997b, 1998a, 2001bc, 2009c, 2011b)、また専門辞典などへの寄稿を行っている。また、大きくは科学的な考え方と人々の心理に関する関心に端を発し、具体的なテーマとしては日本国内で特に広まっている「血液型-性格関連説」に関してそのロジックと問題点を指摘する活動を、一般講演やメディアへのコメントを含めて行ってきた。一般向けの論考としては、柴内(1998b, 2003e)などがある。

2)現在進行中のプロジェクト
a)「社会的連帯」をめぐる心理メカニズムの検討(助成研究)
b)「東日本大震災」と情報行動(共同研究)
c)「血液型と性格」論