『ぼくらの先輩は戦争に行った』

井上ひさし監修、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパステクニカルライティング教室(講談社、1999)



 ゼミナールでライフヒストリーの聞き書きを行うため、大学での聞き書きの実践を探していたところ、慶應大学での実践が見つかった。この実践は、戦時中に青春時代を迎え、学徒出陣等で戦地に赴き、九死に一生を得て生還した慶應義塾の先輩たちを、ちょうど半世紀後に生まれた後輩たちが訪ね、話をうかがい、自らの認識の変容もふくめて編集するというかたちをとっている。
 この実践記録がすぐれているのは、当時の学徒出陣の学生たちのリアリティを明るみに出すとともに、現在の学生の戦争についての認識をも照らし出しているところにある。私が想像していた以上に、学生にとって戦争は遠くにあるように思われた。両親ともに戦後生まれの世代が、戦争に行きつくためには三世代遡らなくてはならない。この実践は、三世代分を一気に跳躍するパワーをもっている。このパワーは、井上ひさしが書いているように「七十代の戦争体験者が、二十歳前後の学生に向かって、自分たちが二十歳前後に出会わなければならなかった希有の出来事を語るという構造」から生み出されているように思われ、語り手にとっては、若い聞き手の存在が喪われた青春と重なり、そこから五十数年の歳月をこえて、新鮮な語りが生み出されているのである。
 謙遜なことに名前を出されていないが、89名もの学生を指導し、このような作品をまとめ上げられたのは、講師の植田紗加栄さんのアイディアと実践の構想力、実行力の賜物である。同じ仕事を志すものとして、敬意を表したい。