『東電OL殺人事件』

佐野眞一(新潮社、2000)



 渋谷区円山町、ホテル街に隣接した木造アパートで東電OLの女性が殺害された。またたくまに昼はエリートOL、夜は娼婦という情報がスキャンダラスにかけめぐり、彼女は好奇の目にさらされた。さらに、当初犯人とされたネパール人の容疑者がほぼ冤罪であることが判明し、事実、無罪判決が出たにもかかわらず、拘留されつづけているという異常な事態も加わった。この事件は、ただの殺人事件をこえて、日本社会を垣間見る万華鏡のような事件となった。
 この本を読みながら、私の脳裏に、中島みゆきの一つの歌がかけめぐった。「イヤリングを外して きれいじゃなくなっても まだわたしのことを 見失ってしまわないでね フリルのシャツを脱いで やせっぽちになっても まだわたしのことを 見失ってしまわないでね 〜」という歌詞ではじまる“あした”という歌である。39歳のこの女性のかなしみとこの曲が重なりながら、この死は、限りなく自死に近い死だったのではないかという思いがわきあがってきた。高校時代まではふくよかだった彼女が、死の直前にはガリガリにやせていた。しかし、それでもなお夜の街頭で立ちんぼをすることによって、自分の存在証明を求めていたのである。わずか2000円しかもらっていなかったが、それでもお金にはこまかかったといわれている。これは自分の身を売ってお金をもらうことが、自分の存在価値をたしかめる最後の砦だったからではないだろうか。
 彼女が歩いた道を確かめようと、渋谷の道玄坂に出かけた。円山町のホテル街を抜けて、神泉駅のすぐそばにタイムスリップしたような木造のアパートがあった。そこで彼女は、永い眠りについた。