『トランスパーソナル心理学入門』

諸富祥彦(講談社現代新書、1999)



 相次ぐ少年犯罪、ストーカー事件などで心理学が表舞台にあらわれ、心理学によってこれらの事件を予防できるかのような期待が感じられるが、私はこれは危険なことだと考えている。例えば、佐賀のバスジャック事件は、新聞報道によると、犯人の少年は中学3年のときひどいいじめを受け、重傷を負い、高校に入ってから不登校状態であったという。そして、カウンセリングを受け続けていたというのだが、本来ならば病んでいて、まず第一に治療を受けなくてはならないのは、そのようなひどいいじめをせずにはいられない生徒たちであり、またそれを生み出してしまう学校であったはずだ。こうしたプロセスを抜きにして、問題を起こしてしまったかに見られる人間のみに対症療法的なアプローチでかかわるというやり方は、何とも危険である。これは、社会が悪い、学校が悪いといっているのとは全く違う。問題を個別の人間に矮小化することと、心の問題に限定することの危うさを指摘しているのである。
 前置きが長くなったが、本書『トランスパーソナル心理学入門』は、病んでいる者を正常に戻すという心理学ではなく、普通の生活を送っている者にさらなる魂の成長を指し示す心理学をわかりやすく伝えた本である。心理学は人の心を操作するためにあるのではなく、自分の心を見つめる手がかりとすることではじめて生きてくる。人生において起こる出来事にはすべて深い意味があり、そのメッセージに耳を傾けよというトランスパーソナル心理学。大学の頃、V・フランクルを愛読したが、あの実存主義が心理学にも受容されつつあるというのは、感慨深い。