『パソコンが野球を変える!』

片山宗臣(講談社現代新書、2000)



 もうめちゃくちゃ面白い本である。パソコン好きで、野球好きで、人に教えるということに昼夜を問わず考えている私にとって、この本は、どっきんどっきん、ページをめくるごとに胸の高鳴りを抑えきれないような興奮を与えてくれた。この本は、球種や打球の方向などのデータを徹底的に収集し、分析するコンピュータ・システムを作り上げた「アソボウズ」という集団が、どのようにして立ち上がり、どのようにしてプロ野球に革命的な打撃を与えたのかを綴った、迫力にみちたドキュメンタリーである。
 1995年の日本シリーズ、ID野球の野村監督が率いるヤクルトが仰木オリックスを4勝1敗で下した、そのバックグラウンドに「アソボウズ」がいたことなど、この本を読むまでちっとも知らなかった。また、伝説となっている、あのときのオマリー選手と小林投手の14球の死闘も、「アソボウズ」のデータ解析に支えられたものだったとはもう驚きである。
 この本は、野球という一つの素材を通して、私たちが教え、学び、上達し、自分を乗り越えていく、方法論を示した本である。根性や努力などの精神主義、狭い経験主義をこえて、映像とデータとコンピュータというツールを通して、自分を高めていく道筋を明らかにした、感動的な本である。新たな既得権を作るだけのIT革命とやらにうんざりしていたが、民間の先端の部分で、学びと生き方を根底から変える、このようなすばらしい試みがなされていることを知り、希望を与えられた。