『家族関係を考える』

河合隼雄(講談社現代新書、1980)



 本書の著者河合隼雄は、いわずと知れたユング派の臨床心理の大家。本書は1928年生まれの著者の50歳頃の作品である。あとがきに次のような一節が記されている。

 「今では『子どもが悪いのは親が悪いからである』という単純な発想が通じない。極端な言い方をすると、親も子どももよくても、問題は生じてくるのである。これは、現在における家族の在り方そのものが−どんな家でも−何らかの問題を内在させていることを意味している。」

 1999年、世紀末の今、ようやくわたしたちは、河合がいうこの言葉を理解しつつある。家族とは、その成員一人ひとりが、ときには自らが輝く光になり、ときには他の成員の影となり、さまざまな問題を孕みつつ、生きながらえていくものである。そこには、理想の家族など幻に過ぎず、もし理想の家族なるものがあるとしたら、その裏には影のうめきと犠牲があるのだ。
 日本社会における家族というシステムの制度疲労の問題、硬直化の問題は、もちろん議論を重ね、解決していかなくてはならない問題である。夫婦別姓の問題、老親の介護問題、婚外子への差別など、さまざまな問題が山積している。だが、同時に、いかなるシステムを準備しようとも、葛藤のない理想の家族などあり得ないということを深く認識することが求められるだろう。河合のこの著書は、豊富な臨床体験をもとに、「普通の」家族にどのような葛藤があるのかを明るみに出した、家族力学の入門書である。