『閉山−三井三池炭坑1889-1997』

奈賀悟(岩波同時代ライブラリー、1997)\1200



 この本の著者奈賀悟氏について次のような紹介がなされている。「一九六〇年北海道に生まれる。岩手大学卒業。八六年、朝日新聞入社、北海道報道部、名古屋社会部などを経て、最後のヤマ(炭鉱)記者となる決意のもと、九四年から大牟田通信局勤務。著書に『海よ 芦浜原発30年』(共著、風媒社)がある。」閉山に備え、丹念な取材と調査を進めた著者は、三池の110年の歴史を見事に一冊の本にまとめた。三池争議や三川坑の粉塵爆発のような大きな歴史だけでなく、三池に生きた人の声を拾い、小さな歴史からもう一度三池の歴史を編み直しているところに、感銘を受けた。なかでも「ユンヌンチュ」(与論島の人)二世の若松沢清さんのライフヒストリーと鹿児島県生まれで今は都内に暮らす元坑夫のライフヒストリーに、わたしは興味をもった。日本という国がそもそも混血の国であるように、大牟田もまた雑多な故郷をもつ人々が集まった混血の町だったのだと、改めて思わされた。あらゆる者が混血であるのに、ある者が自らを純血であるとして、よそ者を差別していく。どこの地方にもあるように、わたしの故郷である大牟田にもこのような差別がある。炭坑労働者を理想化することは、自らの欠損を弱者に押しつけてカタルシスを得る一種の「オリエンタリズム」として、厳しく批判されなくてはならない。しかし、根無し草だった多くの炭鉱労働者が、自らの混血を自覚せざるが得ないゆえに、やさしさをもっていたことは、おそらく確かなことだろう。同じ若い世代に、このように打ち捨てられた三池についてライフワークとして取り組んでおられる方を見出したことは、わたしにとって脅威でもあるが、大きな励みでもある。