『今どき子育て事情』

丹羽洋子(ミネルヴァ書房、1999)



 「最近の子どもの問題は、母親のしつけがなっていないせいだ」というような言説をしばしば見受ける。教師批判に続いて、今度は母親批判かと、スケープゴートに罪を被せて自分は関係ないそぶりをする言説にはうんざりする。それでは、今の母親たちはどのようなことを思い、悩み、考え、子育てに取り組んでいるのかを明らかにした言説はどうだろうかというと、なかなか見あたらない。そうした中で、この『今どき子育て事情』は、電話インタビューによって、今の母親たちの思いを汲み取り、まとめた貴重な資料である。著者の丹羽洋子のインタビューと分析には教えられることが多い。同じ女性ということもあるだろうが、問いのセンスがいいし、母親から警戒感のバリアを取り除き、調子よく語らせることに成功している。さらに、分析では、消費社会のなかでたくましく生きる母親たちの姿を肯定しつつ、子育てをめぐる環境の危機をも触れるという、平均台の上での見事なバランスのとれた記述にうっとりするほどである。冒頭に書いたようなアホらしい言説ではなく、本書のような子育てをエンカレッジする研究が今後求められている。