『モラトリアム人間を考える』

小此木圭吾(中公文庫、1985)



 評者は、1987年に大学の講義の課題図書で、小此木圭吾の著書にはじめて出会った。そのときは、モラトリアム人間をこれからの生き方として肯定する著者の論が理解できず、反発を感じたことを覚えている。ところが12年後、学生相談室関連の仕事をするにあたって、何冊が読み直してみたところ、大学時代の自分の読み方がいかに浅かったのかを思い知らされた。著者の論はそんなに単純なものではなかった。モラトリアム人間の歪みと病を分析した上で、脱モラトリアムのプロジェクトの欺瞞性と危険性を論じ、わたしたちが生きる道は自らがそうであるところのモラトリアム人間の歪みを見据えた上でモラトリアム人間を生き抜くしかないということを論じていたのである。この本は、モラトリアム人間の成立のプロセス、そして破綻、病理について叙述した本である。来週の「モラトリアム人間の時代」とセットで読むことにより、小此木のモラトリアム論の全貌がうかがえる仕組みになっている。