『戦後の思想空間』

大澤真幸(ちくま新書、1998)



 本書の著者大澤真幸は、1958年長野県松本市生まれ。東京大学大学院社会学研究科を経て、現在京都大学大学院人間・環境学研究科助教授。著書に『電子メディア論』(新曜社)、『性愛と資本主義』(青土社)などがある。
 この『戦後の思想空間』という著書は、1997年に「リブロフォーラム」において行った講演をベースとしたものである。そうであるから、難解な大澤理論が、かなりわかりやすく描写されている。この著書の構図は、「二つの六十年間」という言葉で端的に表現されているように、日本が世界戦争に突入した1930年代と現在の1990年代を六十年の周期で巡ってきた類似の思想空間であると捉え、1930年代の出来事を手がかりとして1990年代を読み解いていくというところにある。1970年代を「アメリカの善意を自明の前提とした構造がもはやリアリティを失いはじめた」日本社会の転換期であるととらえ、鋭く現代に切り込んでくる著者の腑分けの腕には、おののくばかりである。著者が指摘するように、戦争が「思想表現の困難として」「思想表現の不可能性」として体験されるのであるならば、ことば(思想)が空虚になり、届かなくなった今は、新しい戦前にあるのかもしれない。ことばにかかわるわたしたちに、警告を発する一冊としてわたしは読んだ。