『セックス・性・世界観』

伊田広行編著(法律文化社、1997)



 「この本は、ゲイ・リベレーションやフェミニズムの視点を基礎に、『性』を考えるなかで、新しい時代を生きる指針−個人を基礎にした世界観−を探る本である」という書き出しではじまるこの本は、大阪経済大学の伊田さんが、同性愛者であることをカミングアウトした伊藤悟さんややなせりゅうたさんたちと共振しつつ、自分の性と身体を回復し、自分らしく生きるために、既成の価値観ではなく、自分の頭で考えて、編んだ一冊である。
 自分を肯定することは、自分の性や身体を肯定することでもある。もし自分の性や身体をいやらしいものとしてしか感じられないとしたら、なぜ自分が自分のものであるはずの性や身体をいやらしいものとしてしか感じられないのか、考える必要がある。そうすると、他者のまなざし、社会のまなざしを内面化し、自分いじめに落ち込んでしまった自分に気づくことだろう。伊田さんはいう。「性教育をするとは、教師が自分の世界観を提示するということである。男たちが性暴力をしてきたことを直視したうえで、性差別を許さないという方向をもたない性教育などクソである。性的な自己決定(性的権利の概念)を何よりも尊重する教育が必要である。だから、従来の異性愛絶対視の秩序のうえでの『命を大切に』とか『正しい性のあり方』なんでものは、教育の名に値しない。」これから教育にたずさわる者は、自分の世界観を問われつつ、他者との出会いの中で、その世界観を見直していく学びの力を要求されることだろう。大学の夜間部のゼミナールで「性と恋愛」について学んだところ、リポーターの学生が図書館でこの本を探してもってきた。権威に身をゆだねるのではなく、自分の頭で自分の性と生き方を考えようとしている学生が育ちつつあることが、希望として感じられた。