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忌野清志郎『冬の十字架』、頭脳警察『1972-1991』

kiyosiro.jpeg・「君が代」がさしたる反対もなく法制化された。小学校や中学校、そして高校の入学や卒業の時期には、必ずあちこちで「君が代」ボイコットの運動があったのに、この様変わりには驚くばかりである。猛烈な反発をおそれて自民党が出したくとも出せなかった法案や制度改革があっさり現実化してしまう。みんながおとなしくなったのか、あるいは無関心になったのか、とにかくいやな風潮である。
・「君が代斉唱」なんて場には出たくないな、と思っていたら、忌野清志郎が「君が代」をパンク風にアレンジして新譜として売り出すというニュースがあった。「おもしろいな」と興味を持ったが、すぐに、レコード会社が発売中止の決定をした。反響の大きさに、怖くなって自粛してしまったのである。日本の音楽産業の事なかれ主義は救いがたいほどだが、忌野清志郎はそのアルバムを自主発売した。なかなかやる。まだまだ悪たれ小僧のような素直な精神を持っていると思った。
・残念ながら、肝心の「君が代」は今ひとつの感じだった。しかしそれはやっぱり曲やことばのつまらなさのせいで、がんばってパンクにしようとしてもカッポレになってしまうほかはない歌なのだ。やっぱり、「君が代」は歌いたくないなと、再認識。
・このアルバムのタイトルは「冬の十字架」。ジャケットには青いシャツ、黄色いパンツ、金色のシューズ、それに赤い羽根のショールを肩にかけた清志郎がちゃぶ台に肘をついて座っている。部屋の感じからいって30年ほど昔のようだが、もちろん、本人は間違いなく現在の姿だ。で、なかなかおもしろい歌が入っている。たとえば、


川のほとりで 自殺を考えた / だけど怖いから、やめた
俺はだめな奴だ もう死んでるんだ
腐った心の持ち主 誰にも会わせる顔がない
クズクズクズクズ人間のクズ / クズクズクズクズ人間のクズ
クズクズクズクズ人間のクズ / クズクズクズクズ俺のことさ 「人間のクズ」

・東京に来て気づいたことの一つに電車への飛び込み自殺の多さがある。関西では滅多に聞かないニュースだが、東京ではしょっちゅうあって、しかもJR中央線が多い。つい最近も阿佐ヶ谷駅で朝の出勤時だった。僕の勤める大学は国分寺駅下車だから、授業時間に支障が出ることもしばしばある。今のような試験中だと、日程変更をしなければならないが、去年は予備日にまた飛び込みがあって、対応に苦労したそうである。
・それはともかく、自殺を考えたとしても、思いとどまるのがふつうの人の感覚で、クズと自分を責めても、怖いからやめたというのが勇気ある判断であることは間違いない。忌野清志郎もそれが言いたくてこの歌を作っている。そんな気がした。あるいは、東京では人間関係は希薄で、引き留める役割が不在なのかもしれない。この歌はそのための声のようにも感じた。
・そのほかにも「シワヨセ」が48年働いたことがない俺のところにやってきた、と歌う「来たれ21世紀」や若い人たちを挑発するような「俺がロックンロール」、あるいは妙に切ない「心のボーナス」など、おもしろい歌は多い。本当に数少ない、今を歌うことができる日本のロック・シンガーだと思う。

zuno.jpeg・もう一つ、一緒に買った頭脳警察の『1972-1991』。題名の通りBESTアルバムである。ラディカルなメッセージで伝説的な扱いを受けているバンドだが、改めて聞くと、やっぱりことばは勇ましく、サウンドはまっすぐで、期待通りに懐かしさを感じた。
・ロックは「路地裏の悪魔」として登場し「メインストリートの天使」に変身すると言ったのはイギリスの社会学者ディック・ヘブディジだが、頭脳警察は路地裏の悪魔と言うほどではないが、悪たれ小僧であることに徹したバンドだと言えるかもしれない。そのストイックさが魅力であることはもちろんだが、それがまた彼らを小さな存在にする原因にもなった。そこに行くと、忌野清志郎には客の期待に応えるショーマンシップがあって、ヴィジュアル系の先祖みたいないい加減さもあるが、それがかえってまた、現在に対する彼の誠実な態度と対照的で、スケールの大きさを感じさせたりもする。
・忌野清志郎は3月に武道館で30周年記念のコンサートをやる。ディランに遅れること10年。ずっと歌い続けていたという点では、日本では彼がやっぱり一番なのかもしれない。

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2000年01月26日 23:07に投稿されたエントリーのページです。

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