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Bob Dylan "Live 1961-2000"

・ボブ・ディランがデビューしてからもう40年がすぎた。年齢も5月24日で還暦を迎えた。僕がはじめて彼の歌を聴いたのは16歳の時だから、そのつきあいも35年を越えたことになる。本当に長いつきあいになったな、と思うが、その40年間を1枚に収めたCDがでた。ディランは今年、4年ぶりに日本でコンサートをしたが、その来日記念版として日本だけで発売されたもので、全曲ライブである。

・一番古いのは1961年。ミネアポリスの友人の部屋での録音で曲目はトラディショナルの「ウェイド・イン・ザ・ウォーター」。その時期、彼はほんの少しだけ、ミネソタ大学にいた。そこから、彼のキャリアのなかで節目になるライブが並べられている。たとえば、3曲目の「ハンサム・モリー」はニューヨークのライブハウス、ガスライトでの録音で、レコード・デビューする直前のもの。5曲目の「アイ・ドント・ビリーブ・ユー」はロックを取り入れて物議を醸した1966年のイギリス公演。交通事故で沈黙しているときに出た、1968年のウッディ・ガスリー・メモリアル・コンサートが6曲目。7曲目は 1974年の復活コンサート。8曲目は1975年から76年にかけておこなわれた「ローリング。サンダー・レビュー」ツアー・コンサート。その後も、80 年代から90年代、そして2000年まで、ライブばかり16曲が収められている。

・もちろんぼくは、ここに収録されているほとんどをすでに持っているが、こうして並べて聴くと、また違ったおもしろさが感じられて、無駄な気はしなかった。特に目立つのが声の変化。僕は最近の太いだみ声にはどうしてもなじめないでいる。だから家にいてもディランのCDをかけることは多くはない。かえってヴァン・モリソンの声に、昔のディランとつながるものを感じたりする。だから、このアルバムで、改めて、声の変化のプロセスを確認した気がした。

・ディランのライブを僕は5回聴いている。最初はもちろん、日本初公演の1978年。大阪の松下電器体育館に2日連続ででかけた。2日目の席は前から10列目ほどで、ディランの顔を生で確認できたことだけで感激してしまった。その後、大阪城ホールで2回。最初はトム・ペティがバックで、聴衆が完全に2分されているのがおもしろかった。しかし、その後に来たときの印象はほとんどない。たぶんつまらなかったのだろうと思う。そして最後に行ったのが1997年の大阪フェスティバル・ホールで、レビューにも書いたように、これはなかなかよかった。

・で、今年が4年ぶりの来日コンサートだったのだが、僕は行かなかった。関心がないわけではなかったが、河口湖に住んでいると、本当にライブ・コンサートや映画を見に行くのが億劫になる。しかし、音楽は家や車で聴けばいいし、映画はテレビで見ればいい。そのためのCDやビデオや衛星放送じゃないか。もともと河口湖に住むときにそう判断したのだからしかたがない。とはいえ、今回は行きたかった。

・ ディランはここ数年、いろいろと話題になっている。グラミー賞を取ったし、今年はアカデミー賞ももらった。ノーベル賞の平和賞にも、何度も名前が挙がっているから、たぶん近いうちに受賞するだろう。20世紀後半のポピュラー音楽の方向をつくった人、アメリカ文化の代表者、あるいはアメリカの良心などということばで褒め称えられている。ディランもそのような風潮に応えたのか最近、「世界自然保護基金(WWF)」のために自分の曲を無料で提供する、といったニュースも報じられている。しかし、「歌を歌い始めたころ、動物だけが僕の音楽を気に入ってくれた。今度は恩返しをする番」(朝日新聞より)は、わかったようなわからないような中途半端なコメントだ。

・僕はこのような傾向にあえて反対する気はないが、名声や伝説というフィルターでディランを扱うのはあまり好きではない。ディランがくり返し言っているように、彼は1人の歌うたい。古いブルースやフォークを好んでうたう姿勢を、もっと色眼鏡なしで受けとめたらいいのにと思うし、ディランもちょっと調子に乗り過ぎかなという気もする。

・たまに日本盤のCDを買うと、付録の訳詞にうんざりすることが多い。勝手な思いこみで、いい加減な訳をしているものが多すぎる。同様のことは解説にも言える。いっぱしの評論家気取りが思いつきでだらだらと書く。しかし、このアルバムの訳詞はしっかりしているし、解説も丁寧だ。訳者はおなじみの片桐ユズル、三浦久、中川五郎。解説は菅野ヘッケル。ロックは、英語ができることはもちろんだが、詩がわかって、音楽がわかって、解説や訳詞から、久しぶりに何かを得ることができた。 (01/05/28)

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2001年05月28日 15:50に投稿されたエントリーのページです。

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