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Juchrera"Herveit"

・今回紹介するCDはゼミの卒業生の楠見君が作ったものだ。彼は僕が東経大に移って最初にもったゼミの学生で、リーダー的な存在だった。ロックで卒論を書くと積極的に勉強したし、発表もした。移籍したばかりで慣れない僕にとっては貴重な学生だった。卒論のテーマは「ウェールズ音楽論」。イギリスのなかで唯一見落とされていて、音楽不毛の地のように誤解されているが、決してそうではないということを力説する内容だった。
・楠見君は卒業後も仕事のかたわら音楽活動を続け、その近況報告をこのHPの掲示板に書き込んだり、メールを送ってきたりした。前回報告した溝口君のように、忘れた頃に連絡してくる人は少なくないが、定期的に連絡をくれるのはわずかだ。最近ではイラク戦争に反対するデモを事前に書き込んでくれた。「仕事はやってるの?」と心配すると、「しっかりやってます」という返事。最近では珍しい(?)、素直な好青年である。その彼が自作のCDを出した。タイトルは『HERVEIT』、バンド名は「Juchrera」。どちらも造語のようである。
・聴いてみるとなかなかいい。何より音がきれいだ。ピアノやバイオリンなども入っていて映画のサウンドトラックのような感じ。スタジオを借りたり何人もの人に演奏を頼んだりして大変だったろうと思ったが、同封された手紙では「全部自宅で作成」と書いてある。CDのラベルが厚いせいか、車のオーディオでは出し入れの時に引っかかってしまう。ぎゅっと差し込んだり、出にくいのを引っ張り出す。いかにも手作りの感じだし、本人も「庭の自家製野菜」のような作品だと言うが、中身はなかなか。八百屋さんで売っているのと同じぐらいいい出来だと思った。


朝の光のなかに Toyland
迷い込んでいる 道は遠いな
「今ここにある暇」がどこにある
朝の光に問いかけてなくなった
辞書を参照 言葉得ましょう
無意味の検証「意味がない」でしょう
感情 誕生だが 不感症
だからあべこべ 故に消えてなくなった
同世代など どうせないんだろうと
申さないだろう この世代だと
この世界では その視界では
全てあれこれ それ消えてなくなった
曖昧な愛 曖昧な愛(IMINATOIN)

・ことばもおもしろい。何より日本語でしっかり歌っているのがいい。最近聞こえてくる日本人の歌は日本語と英語が混じって意味不明なんていうのばかりだから、新鮮な感じがする。こんなCDが自宅で作れてしまうというのはすごいと思うが、今は演奏にも録音にもアマとプロの垣根はないのかもしれない。そういえば今年のゼミの卒論には、インディーズ人気という最近の傾向に注目してまとめたのがあった。メジャーのレコード会社が不作でヒット曲が出ない状況のなかで、インディーズ・レーベルが人気を得ている。そんな内容で、僕はそこで取り上げられているミュージシャンやアルバムをほとんど知らなかったが、楠見君のアルバムを聴くと、そんな状況も理解できるような気がした。
・とはいえ、このアルバムが大ヒットするかもしれないなどと無責任な予測を擦るわけではない。メジャーの目にとまったかぎられた人たちだけがすくい取られてスターに仕立て上げられていく。そんなシステムが機能しなくなることは音楽産業にとってはいいことではないかもしれないが、音楽状況としては悪くないのでないか。そんな希望を感じさせてくれただけで十分意味のあるアルバムだということだ。
・なお、このアルバムや楠見君に関心のある方は、ぜひ彼のHPを訪ねて、メールを出してあげてください。

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2003年04月14日 16:09に投稿されたエントリーのページです。

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