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U2とSpringsteen

・オバマ大統領の就任コンサートに登場したU2とスプリングスティーンがそろってアルバムを出した。で、どちらもなかなかいい。U2はアフリカの貧困問題に多くの時間と労力を費やし、スプリングスティーンは、ブッシュを辞めさせるために前回の大統領選挙から先頭に立って活動してきた。最近ではそういった話で名前が出ることが多かったが、本業の音楽でも健在であることを主張した作品に仕上がっている。

U2.jpg ・U2の"No line on the holizon"は5年ぶりのアルバムだ。前作の"How To Dismantle An Atomic Bomb"はタイトル(原子爆弾を廃絶する仕方)通り、直接的なメッセージ色の強いものだったが、今回のタイトルは「地平線に線はない」と比喩的である。海や大地と空をわける地平線は確かに彼方に見えるものだが、実体として存在するものではない。それはちょうど、地図に引かれた国境線のようなものだし、肌の色のちがいや民族や階級の違いという観念にも共通するものだ。「そんなものはないって、想像してごらんよ」と歌ったジョン・レノンの"Imagine" を思い起こさせるメッセージである。当然、収められた曲のどれにも、直接的に訴えるメッセージはない。けれども、それは歌詞の端々に感じとれる。


この乾いた大地では どんな果物も育たない
三日月(イスラム?)の下で笑うのはケシの花だけだ
道路はよそ者を拒み 大地は蒔いた種を拒絶する
そこで見つけるのは、雪のように白い子羊だ
"White as snow"


・歌詞カードを見ながら聴いていてまず思ったのは、アフリカや中近東を歩き回って見聞きしたこと、感じたことが一枚の写真のように歌詞の中にちりばめられているという印象だった。だからどうしろというのではなく、こんなものを見た、こんな人にあった、こんな話を聞いた、といった描写に徹している。もちろん、メロディは美しく、声はつややかで、サウンドは激しく、また静かでもある。

私はまさに底の真上にいる
既知の宇宙の縁で、ここに来たいと思った
不慮のシーンに車を走らせて、私は私を待っている
"Unknown Caller


bruce4.jpg ・スプリングスティーンの"Working on a dream"はブッシュからオバマに変わった歓びの歌のようだ。それはたとえば、いきなり「驚き」を16回も繰りかえす "Surprise"にはっきりと感じとれる。U2と違ってスプリングスティーンは2005年以来、毎年のようにアルバムを出している。その精力的な仕事の中で歌い続けているのは、現状への批判と、諦めてはいけないという励ましだ。こんなではなかった昔を思いだすこと、夢を持ちつづけること。悪くなればよくなることもある。明日はだれにもわからないのだから。こんなメッセージが連続する。
・もうひとつU2と違うのは、スプリングスティーンの描く世界は、アメリカ一色だということだろう。それは良くも悪くも彼のこれまでの歌に一貫したものだ。その単純さに、時に辟易するが、またその素直さに心引かれる。このアルバムの1曲目の "Outlaw Pete"は無法者ピートの物語だが、"Can you hear me?"という印象的なフレーズが何度も繰りかえされる。それは誰より、スプリングスティーン自身からの呼びかけのように聞こえてしまう。だから、いつでも「あー、ちゃんと聴いてるよ」とつぶやきたくなる。
・前作の"Magic"について触れた時に、他のディランやジャクソン・ブラウンやジェームス・テイラー、そしてデーブ・メイソンやサウザーに比べて、ジャケットの写真が若すぎると書いた。だからこそ驚いたのだが、付録のDVDに登場する顔はしっかり老けていて、別人のようだった。もちろん、僕には、親近感が感じられた。

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2009年04月06日 08:14に投稿されたエントリーのページです。

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