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ロジャー・ウォーターズとスティング

waters2.jpg・ピンク・フロイドのライブをYouTubeで見て、同時にロジャー・ウォーターズのライブもたくさんあることに気づいた。両者は長いこと対立していて、ウォーターズは彼が脱退した後のピンク・フロイドを認めなかった。和解して一緒に行ったライブもあって、時系列に沿って楽しんだ。そんな時、たまたまロジャー・ウォーターズの「ザ・ウォール・ライブ」をWowowで見た。このライブは2010年から13年まで行われ、450万人を動員したと言われている。
・この作品はたんなるライブのドキュメントではない。ライブの間に自分の生い立ちから現在までの歴史をたどり、その時々の自分を思い返している。ただし主人公はピンク・フロイドという名のミュージシャンである。ロジャーズは父が第二次大戦で死んだことで、父親不在で大人になった。しかし彼の祖父もまた第一次大戦で戦死していたから、父親自身も父親なしで育った。「ウォール(壁)」には、そんな自身の歴史に追い被さった戦争や、現在の世界における紛争や張り巡らされた壁に対する批判が、強く主張されている。ステージの仕掛けの大がかりさとも相まって、圧倒されながら見た。

waters1.jpg・ロジャー・ウォーターズはまた昨年、"Is This the Life We Really Want"という名のアルバムを出している。「これが本当に欲しかった生(活)なのか」というタイトルが気になって買うことにした。中には同名の曲もあって、そこでは今の世界の不条理をストレートにあげつらって批判している。このアルバムを作るきっかけになったのは、トランプ大統領の就任だったようで、歌が始まる前にCNNを批判するトランプの演説が挿入されている。紛争、難民、殺戮、貧困、環境破壊、貪欲な億万長者、フェイク、そして人々の無関心。こんな現状に対する怒りで溢れたようなアルバムになっている。
・彼は日本のことは知らないだろう。しかし、薄汚い嘘にまみれた政治や、しょうもないスキャンダルにうつつを抜かすメディアに対して、同じように糾弾したくなった。ジャケットは検閲が入って黒く塗りつぶされているが、財務省が最初に出してきた文書そのままだ。「働かせ改悪」や「カジノ法案」が、本当に私達が欲したものなのか。残念ながら、今の日本には、こんなストレートに批判するミュージシャンはいない。

sting5.jpg・スティングの新作はレゲエだ。しかし一人ではなく、シャギーという名のレゲエ・ミュージシャンとのコラボレーションである。知らなかったが、シャギーはボブ・マーリー以後のレゲエを代表するスーパー・スターだという。アルバム・タイトルの44/876は、国際電話をかける時のイギリスとジャマイカの国番号だ。ちなみに日本は81である。もっとも二人はニューヨークに住んでいて、シャギーは10代に移住しているし、スティングは「ニューヨークのイングリッシュマン」である。
・レゲエはダンス・ミュージックという色彩が強いが、一方でボブ・マーリーがそうであったように、政治や社会に対する反抗や批判といった姿勢も貫かれている。このアルバムにも、子どもの頃憧れたアメリカとはずい分違ってしまった現状を批判する歌がある。あるいは貧困と犯罪、夜勤仕事などが物語として歌われている。しかし、また同時に、自由の女神の国、新しい文化が生まれ続けてきた国であることも歌っている。

・アメリカが希望と悪夢を合わせ持った両義的な国であることは、ロックが生まれた60年代からずっと変わらない特徴だった。しかし今は、夢ではなく悪夢をもたらす国のように思えてならない。米朝会談で日本が巻き込まれる戦争は回避されたが、トランプの気まぐれで、どうなるかわからない。レゲエを聴くと、ほんの少しだけほっとする。 

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2018年06月25日 08:41に投稿されたエントリーのページです。

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