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空恐ろしい「アベ」の時代

phil.jpg・ジョージ・ソーンダースの『短くて恐ろしいフィルの時代』は「内ホーナー国」とその外側にある「外ホーナー国」の物語である。「内ホーナー国」の住民は6名だが、小さすぎて一度に一人しか入れない。だから残りは「外ホーナー国」の国境沿いにはみ出して立っているしかなかった。「外ホーナー国」には十分広い土地があったが、国境の侵犯を苦々しく思っている者が少なくなかった。

・「外ホーナー国」の住人のフィルは「内ホーナー国」のキャロルに恋してふられたのを根に持って、「内ホーナー国」に嫌がらせをし始める。大統領に取り入って国境警備隊を組織して、国境侵犯を理由に、「内ホーナー国」にある一本のリンゴの木と小川を税として取ってしまう。あるいは住民の持っていた有り金や着ている服まで奪ってしまう。調子に乗ったフィルはやがて大統領を追放して、自ら大統領を宣言することになる。「内ホーナー人」を閉じ込める監獄を作ったが、それを「平和促進用隔離区域」と名づけた。

・この騒動は「外ホーナー国」の外側にある「大ケラー国」にも伝わった。コーヒーを飲みながらおしゃべりをすることが好きな7人の国民が住んでいた。しかし、フィルの横暴に危機感を持って、「外ホーナー国」に軍隊を派遣し、フィルの「親友隊」を滅ぼすことになる。「平和促進用隔離区域」(監獄)から解放された「内ホーナー人」が逆襲をし始めると、空から大きな手が降りてきて、両国の住民を眠らせてばらばらに分解をした。実は両国の住民は機械の部品や植物で合成されていたのである。大きな手(創造主)はそれらをまた組み立て直して、15人の住民を作り、国境線をなくして「新ホーナー国」とした。ただし、フィルの脳みそは小川に捨てられて魚の餌になり、胴体は「モンスター」として彫像にされた。

・最初はイメージしにくい奇妙な話だと思ったが、日本と沖縄、そしてアメリカの関係にダブるように感じられてからおもしろくなった。あるいはフィルの言動が、安倍によく似ていることも気になった。もちろん、この物語を書いたソーンダースは日本や沖縄を意識していたわけではない。書かれたのは2005年だから、2001年9月11日に起きたニューヨークでのテロ事件との関連で批評されたりもしているようだ。

・9.11とその後のブッシュの行動が、イラクやシリアの混沌とした無秩序状態もたらしたことは間違いない。だから、イスラム国を生む元凶となったブッシュもフィル同様に「モンスター」として彫像にされてもおかしくないのだが、残念ながら現実の世界には「創造主」が現れることはない。もちろん、世界中の紛争の解決をお願いすることも出来ない。けれども現状は、神頼みでもしなければならない泥沼状態になってしまっている。

・日本のフィルであるアベもまた9.11後のブッシュにそっくりである。この「恐ろしいアベの時代」をどうしたら終わらせることが出来るのだろうか。先週の大学の講義で、僕は「嘘と秘密」をテーマにしてアベの言動を例に「ダブルスピーク」の話をした。しかし学生達のほとんどは「国際平和支援法案」も「ホワイトカラー・エグゼンプション」も、その名前すら知らなかった。「秘密保護法」も「マイナンバー制度」も自分に関係する危険な法案なのに、なぜこれほど無関心でいられるのか。話をしながらあきれて、途方もない無力感に襲われた。

・彼や彼女たちが「内ホーナー国」の住民になって「平和促進用隔離区域」に閉じ込められなければ気づかないとしたら、フィルであるアベは、いけいけで自分の野望の実現に向けて暴走するだけだろう。「空恐ろしいアベの時代」は、すでに短いといえないほど長く続いているのである。

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2015年05月25日 07:26に投稿されたエントリーのページです。

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