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感情と勘定が世界を劣化させている

・相模原市の障害者施設で19人の入居者をナイフで殺害する事件が起こった。犯人の言い分は「社会に無用な人間はいなくなればいい」というものだったようだ。この施設で働いていた時に思ったのかもしれない。それは老人ホームで働いていた職員が,入居者を殺した事件に共通している。

・確かに,有用性から見れば、障害者にしても,老人にしても,手間がかかりお金もかかるばかりで,社会にとっては無駄だと言える側面はある。こういう施設で働いている人も,あるいは家族の人にとっても、そんな思いをふと感じることもあるだろう。しかし、そうではないと打ち消す強い気持ちも同時に感じるのが普通のはずである。

・人にはいろいろな側面がある。優れたところも劣ったところも、それをひとつの個性としてつき合うところに、人間同士の親密な関係やかけがえのなさが生まれてくる。もちろんそこには、どんな人も皆平等に人権を保障されるべきだとする近代社会以降に確立した考えがある。これは法律上だけでなく、倫理の問題としてすべての人に分け持たれるべき思想でもある。

・しかし今、こういった倫理をないがしろにする、きわめて一面的な知識に基づいた感情的な発言が目立っている。差別意識を露骨に公言するヘイトスピーチが各地で起こったりするのは好例だが、それを正当化する政治家の発言も少なくない。批判や非難が起こっても,同様の発言が繰り返されるから,もうすっかり慣れっこになってしまっているし,逆に選挙運動での発言が注目されて,支持を増やしている例なども少なくない。

・その代表はアメリカの大統領候補として共和党から指名されたトランプだろう。理想(建前)をないがしろにしてきわめて感情的な発言(本音)を強調するのは、今の社会や自分の置かれた現状に不満を感じている人たちを引きつけやすい。アメリカが強くなること,それを牽引するのが白人の男であることといった訴えが、中流以下の白人に受けている。ここには人種や性別に関する露骨な差別主義があるし、アメリカのことしか考えない傲慢さや,他国を見下す意識がある。

・同様の傾向は最近の参議院や都知事の選挙でも見られた。野党が統一候補を立てたことには「自公」の連立を棚に上げた「野合」「民共合作」などといった非難が浴びせられたし、都知事選でも野党統一候補には何年も前の未遂と思われる「不倫報道」が週刊誌で取り上げられた。ところが肝心の政策に関する論争に対しては、メディアは「中立」に名を借りた政府の圧力によって、ほとんど何も取り上げずじまいで、それこそ一時の感情によるイメージ選挙に終始した。

・政府は沖縄で敗北すると、その翌日に機動隊を動員して、高江のヘリポート建設に反対する住民を暴力的に排除する行為に出た。県民の意思を無視した暴挙だが、メディアに大きく取り上げられることはなかった。弱者切り捨ての方針は明確だが、沖縄に冷酷に対応すればするほど,強者であるアメリカへの追従が明らかになる。また首相はこの時期にリニア新幹線を目玉にした28兆円の経済対策を表明したが,その裏で生活保護費や福祉給付金、子育て給付金、障害者年金、介護報酬、障害者事業者報酬などを削減、半減、廃止する政策も出している。まさにやりたい放題の犯罪的な行為だが、取り締まるどころか支持率が上がっているのだから、どうしようもない。

・感情と勘定が日本はもちろん世界中を劣化させている。ひどい時代になったもんだとつくづくと思う。

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2016年08月02日 14:13に投稿されたエントリーのページです。

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