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『トレイン・スポッティング』

・春先から気になる映画だったが、見るチャンスがなかった。評判はいろいろ耳に入ってきた。だからどうしても見たいと思った。柳原君は『CLIP』に「エジンバラだろうと大阪だろうと関係ない。今を生きる僕たちにはどうしようもない、逃れられないもの」と書いた。一体それは何だろう?で、本とCDを買った。
・本は決して読みやすくはなかった。ディテールはおもしろいのだが、ストーリーがうまくつかめない。ドラッグとセックス、酒場でのケンカ、友人たちとの悪ふざけ、盗み、そしてAIDSと中毒。クソや小便。何かをしたいがやることが見つからない。何者かになりたいのだが、それが良くわからないし、第一チャンスがまるでない。そんな閉塞状況。けれども、それなら、今にはじまった話じゃない。僕が10代の頃だって出口のない袋小路の世界だと言われていたのだから。ジェームズ・ディーン以来、青春映画におなじみのテーマ。
・もちろん、読むときにはサウンドトラックのCDを聴いた。イギー・ポップ、ブライアン・イーノ、ルー・リード.........なじみの人たちが多い。はじめて聴いたサウンドをふくめて、決して悪くはない。けれども、どうしても本の世界と重ならない。ジャケットには「マーク・レントンは我らの時代のヒーロー。親父には想像もつかないエジンバラの下腹部の話」と書いてある。つかみどころがない、何とも言えないもどかしさ。これはもう早く映画を見るしかないと思った。
・で、7月の末にやっと見た。京都の「祇園会館」で2本立て、もう一本は『バスケット・ボール・ダイアリー』だった。ニューヨークの高校に通うバスケット・ボールの人気選手がドラッグ中毒になる話。退学、ドラッグへののめり込み、盗み、禁ヤクと禁断症状、少年院送り、そして更正。事実をもとにしたそうで、主人公は、この自伝的小説をきっかけに小説家になりロック・ミュージシャンにもなったという。へー、聴いてみようかなと思ったが、名前を忘れてしまった。ニューヨークにはそんな話はいくらでもあるんだろうな、という気持ちにはなったが、映画としてはきわめて平凡。つまりシリアスなトーンで最後がハッピー・エンド。ちょっと前にWowowで見た『Kids』の方がずっとショックだった。
・映画を映画館で続けて2本見るのは久しぶりのこと。おまけに外は暑かったのに、中はクーラーのききすぎで風邪をひきそうに寒い。休憩に温かい珈琲を一杯。映画は家で見るにかぎるなどとぶつぶつ言っていると、「生活、仕事、経歴、家族を選べ!大きなテレビ、洗濯機、コンパクト・ディスク・プレイヤー............だけどなぜ、そんなものを欲しがるんだ?」といった文字がスクリーンに現れ、イギー・ポップの「ラスト・フォー・ライフ」が流れる。本には、そんなことばはなかったんじゃないか、と思ったが、映像とサウンドの組み合わせが妙に気持ちがいい。
・座薬のドラッグの場面は本を読んだときもおもしろかった。しかし、映画ではそこが誇張されて、しかもイーノが使われているのには驚いてしまった。少女との出会いとセックス、ドラッグ・パーティ、AIDSによる友だちの死。仲間と共謀したヤクの密売。それで転がり込んだ大金。それをレントンが持ち逃げする。そこでまた「生活、仕事........................」という文字。手にした金で新しく生活をやり直そうというところで終わりになる。きわめてわかりやすい。
・見終わったときに、やっぱり、映画は映画だなと思った。読みにくかったけど、本の方がもっといろんな世界を描き出そうとしていた。で、本をもう一度読み直すことにした。そうしたら、映画では端折られてしまったシーンやことばは少なくなかったが、映画の方が簡潔でよかったかな、と考えるようになった。何より、コミカルなタッチとサウンドが抜群だった。
・で、柳原君のいう時代感覚だが、青年期に感じる世界の閉塞状況が、時間を経るにつれ、ますますしたたかになっていくということかな、と思ったが、それでは外から見てる研究者の態度だと言われてしまうかもしれない。 (1997.08.03)

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2006年11月24日 10:40に投稿されたエントリーのページです。

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