科研費

研究の概要

研究課題名 : 欧州統合における非政府組織の役割 研究種目名 : 基盤研究(C) 課題番号  : 21530345 研究期間  : 平成 21年度 ~ 平成 24年度 機関番号  :  32649 研究機関名 : 東京経済大学

研究の目的

 本研究の目的は,欧州統合における非政府組織の役割を明らかにすることにある。非政府組織による戦後最初の大規模な活動は1948年にハーグで開催されたヨーロッパ会議である。本研究は,同会議を主宰した4団体のうち,経済面での欧州統合を推進することを目的として設立された欧州経済協力連盟に焦点を当てる。欧州経済協力連盟は今日でも精力的に活動を行っている非政府組織であるが,本研究では連盟が設立された第二次大戦直後からEEC(欧州経済共同体)が発足した時期までを対象とする。この研究により,非政府組織が政府や政治家に与えた影響やなぜ欧州統合が経済面での統合から始まることになったのかについて明らかにしたい。

成果報告

(1)研究の主な成果
① 欧州経済協力連盟の役割
 第二次大戦後の1940年代後半,ヨーロッパでは欧州統合を目指す非政府組織がいくつか誕生した。本研究が特に注目したのは,経済統合を主張し経済統合に関する研究を行った欧州経済協力連盟である。
 なぜなら,1950年代に欧州では具体的な統合が始まるが,それは政治面ではなく,経済面での統合であった。そこには,連盟の影響があるものと考えられるのである。
 連盟は1946年秋の前ベルギー首相ヴァンゼーラントとポーランド人レティンゲルの話し合いにより設立が決まった。当初は文化と経済の両面での研究を行うことを目指し,仮の名称として欧州独立協力連盟を用いていたが,他の団体との棲み分けやマーシャル・プランへの対応もあり次第に経済問題に特化し,1948年秋に正式に欧州経済協力連盟となった。
 連盟の本部はブリュッセルに置かれ,支部組織の各国委員会が主要国に設立された。この時期とくに積極的な活動をしていたのはまず,イギリス委員会であり,ついでフランス委員会であった。
 連盟の経済思想はヴァンゼーラントの影響が強く(新)自由主義的であり,ヨーロッパに自由な通商関係を構築することを目的としていた。
② ハーグ・ヨーロッパ会議と欧州運動
 連盟と他の欧州統合団体は1947年夏から協調関係の構築に着手し,連絡組織を形成した。さらに1948年5月にオランダのハーグでヨーロッパ各国からの統合主義者,統合団体を結集した会議を開催することに合意した。
 ヨーロッパ会議は連盟を含む6つの非政府組織(主要団体は4つ)によって開催され,議長には統一欧州運動のチャーチルが就任し,ヨーロッパ各国から約800名の参加者を得た。
 また,ハーグ会議が大きな契機となり,それまで欧州協力独立連盟と名乗っていた連盟は経済統合問題を専門とすることから欧州経済協力連盟に名称を変更した。1948年秋連盟は正式にベルギー国内法にもとづく学術団体となった。
 他方,ハーグ会議を組織し成功させた統合諸団体は,欧州統合運動を強化することを目的として,非政府組織の欧州運動(European Movement)を結成した。既存の諸団体は欧州運動傘下の下部団体となり,相互の連携がとりやすくなった。
③ ウェストミンスター経済会議の意義
 欧州運動は,ハーグ会議の諸決議を受け,いくつかの専門会議の開催を決定した。ハーグ会議の経済社会決議にもとづき,経済問題に関する会議が1949年4月ロンドンで開催されることになった(ウェストミンスター経済会議)。
ウェストミンスター経済会議では,ヨーロッパで経済統合を行うための本格的な議論が展開された。
 会議で採択された諸決議からは,のちの欧州石炭鉄鋼共同体,欧州経済共同体,共通農業政策,海外領との連合関係,資本移動の自由,労働力移動の自由,通貨統合の構想が示されたことが確認できる。
なお,本科研費の研究成果は,下記のホームページにおいて公開し,また研究成果である発表論文のダウンロードも直接行えるようにした。

(2)国内外研究における位置づけ
 近年,欧州統合史研究が蓄積されているとはいえ,政府やEU機関の対応ではなく非政府組織を対象とする研究はヨーロッパにおいても多くない。日本国内においてはきわめて少ない。
 1946年に創設が構想され今日のEUにおいても大きな影響力を持つ欧州経済協力連盟を扱う研究は,ヨーロッパにおいてもデュムラン(Dumoulin)の研究などがある程度で,わずかしかない。
 したがって,創設から数年間の同連盟の活動に着目した本研究はこうした研究史の空白を埋めるのみならず,1940年代末当時の欧州統合をめぐる構想を明らかにし,50年代に実現した統合条約の背景を知るうえで十分意義のあるものであると考える。

(3)今後の展望
 本研究における実証分析をもとに発表した論文の対象時期は,時間の制約上,1949年までとなった。ウェストミンスター経済会議の準備報告や議論など詳細な実証分析については現在行っている最中であり,本年中に『東京経大学会誌』に論文を掲載する予定である。
 また,海外調査において収集した資料は,1950年代まであり,今後も欧州経済協力連盟を中心に欧州統合における非政府組織の果たした役割について研究を続けていくつもりである。
 すなわち,1950年代前半にはシューマン・プランの発表,欧州石炭鉄鋼共同体の設立,欧州防衛共同体と欧州政治共同体の挫折などヨーロッパ各国政府による統合の動きが本格化した。
 こうした政府や政治家の動きの背後には欧州経済協力連盟の活動があったことが予見されるのであり,こうした側面を中心に今後も研究を継続していきたい。