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suzumoku"キュビズム"他

・suzumokuなんていうミュージシャンは全く知らなかった。だいたい日本のメジャーの音楽状況はここ数年、嵐やAKBやらSKE、NMBなんていう訳のわからないグーループに席巻されていて、およそ音楽とは関係ないビジネスと化している。興味がないと言うよりは嫌悪感で、聴くのはもちろん、話題にもしたくないほどだった。もちろん、3.11以降にさまざまな問題を批判する歌が生まれていることも事実である。ただし、その多くが地方に住んで、小さなライブハウスなどで活動するミュージシャンたちだから、メジャーとマイナーの断絶がますます大きくなってしまっている。

・suzumokuのビデオ・クリップをYouTubeで見たのはFacebookで紹介されていたからだった。それほど興味を持ったわけではなかったが、一つ見ると、続けて見たくなって、YouTubeにあるビデオを全部見てしまった。で、さっそくAmazonでCDを買うことにした。日本人のミュージシャンにこんなに興味を覚えたのは尾崎豊以来かもしれない。とにかくひどい音楽状況だけに、とても新鮮に感じられた。

suzumoku1.jpg ・''キュビズム"には12曲が収められている。どの曲を聴いても感じるのは、どこでも見かける街の風景、駅や駐車場、そして自分が住む部屋の様子やテレビ、あるいはそこで出会う人や見かける出来事の描写が、まるでスケッチブックを見るようにイメージできたことだった。で、もちろん、それにはsuzumokuというフィルターが通されていて、その感性や姿勢には共感したり感心したりするものが多かった。それはたとえば、次のようなフレーズだ。


最低まで転げ落ちたら 有名になるの?
犯罪者のモンタージュが 街中に張られている
「モンタージュ」

空回る換気扇のガラガラ 余りにもうるさいものだから
溜息を一つ置き去りにして 冷た過ぎるドアノブを掴む
「ノイズ」

またも虐待のニュースです なんと痛ましいことでしょう
信じ難い事件ですが 次はスポーツの話題です
「どうした日本」


suzumoku2.jpg ・'キュビズム"は昨年出たばかりの最新作で、その他に"素晴らしい世界"と"コンセント"の2作を買った。サウンドはギターだけのデビュー作から徐々に多様なものに変わってきているが、歌詞の特徴にはほとんど変わりがない。「都会を飾る真夜中の明かり 『あれは残業の景色なんどよ』と君は眠そうに目を擦りながら 独り言のように呟いている」(「素晴らしい世界」)。あるいは並んで歩いている恋人同士の会話を歌った「街灯」には印象に残る映画のワンシーンを見るような趣がある。

「もしもさ、明日全てが滅びるならどうしようか?」夕日と歩きながらふと君が問い掛ける 「いきなりどうしたの?」とおどけて笑ってみても 真面目な横顔に僕は少し立ち止まる 認め合いその時まで二人生き残れるのなら 迫り来る最後がどれほど暗くとも 街灯が一つ一つ灯される日常を願うだけ

・歌はことばをメロディに載せて伝える表現手段だ。だから歌を聴くときには、その歌詞が何を伝えようとしているのかに注意を向ける。当たり前の聴き方だと思うが、最近の日本人の作る歌にはほとんどメッセージがないのが普通だった。だから一層、suzumokuの歌には新鮮さを覚えた。彼が描くのは今の若者たちが抱く「心の歌」のように聞こえてくる。ちょっと声が優しすぎるところがもの足りない気もするが、それもまた最近の若者らしさを表象しているのかもしれない。

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2013年04月08日 05:53に投稿されたエントリーのページです。

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