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南アフリカのジャズ

Abdullah Ibrahim "Senzo" "Mukashi"
"Water from an Ancient Well"
"Essential South African Jazz - The Jo'Burg Sessions"

・アブドゥーラ・イブラヒムという名のジャズ・ピアニストを知ったのは、NHKのBSで見た「南アフリカ絶景を弾く〜ジャズ・ピアニスト アブドゥーラ・イブラヒム」だった。南アフリカの山や川、海、日の出などを背景にピアノが流れる内容で、その響きの透明さに引き込まれてしまった。この番組はすでに2010年に放映されたもので、僕が見たのはその再放送だった。彼のもともとの名前はダラー・ブランドで、イスラム教に改宗して改名をしたようだ。

ibrahim4.jpg ・アブドゥーラ・イブラヒムは南アフリカのアパルトヘイトに反対して、ヨーロッパやアメリカに逃れて音楽活動をしていたが、彼が作曲した「マネンバーグ」という曲は「反アパルトヘイト運動」のテーマ曲となり、第二の南アフリカ国家といわれるほどに、人びとに親しまれ、支持されている。そのことは番組でも語られていて、反アパルトヘイトを理由に警察に逮捕された時に、人びとが口ずさむ、合い言葉のような歌だと言う人がいた。

ibrahim2.jpg ・さっそくAmazonで検索すると多数あったが、「Mukashi」とか「Senzo」といった奇妙な名前のアルバムが気になって、その2枚を購入した。1934年生まれだからもう80歳になるのだが、この2枚のアルバムはごく最近の作品である。ほとんど即興に近いようなピアノソロで、曲の合間をなくしてアルバムが一つの曲であるかのように構成されている。「昔」「先祖」とは言っても、日本をテーマにしたものではない。聴いていて思ったのは、キース・ジャレットに共通した、透明感のある音色だった。

ibrahim1.jpg ・ネットで調べると、長年武道を習っていて、日本については文化はもちろん、自然についても関心を持っているようだった。タイトルに込められているのは、今は失われてしまった、あるいは失われつつある自然や人びとの暮らしに対するノスタルジーであり、彼が静かなピアノで強く主張するのは、表層的で慌ただしく、本質を見失った現代社会に対する批判のメッセージなのである。僕は聴きながらキース・ジャレットの即興音楽を連想したが、秘められた強いメッセージを知ると、その音にあるアフリカ特有の明るさゆえに一層、彼の訴えが響いてくるように感じた。

ibrahim3.jpg ・もちろん、これまでに発表されたアルバムにも、遠くパリやニューヨークから、南アフリカののことを思い、アパルトヘイト政策に反対するメッセージを込めた曲が多く残されている。ピアノだけでなく、トリオやカルテットで演奏される、いわゆるジャズの曲もあるようだ。もう少し、彼のアルバムを集めてみようと思っているが、僕が共感するのは、即興で惹かれるソロのピアノだ。今まであまり考えもしなかったが、アフリカ、それも一番遠い南アフリカの山や川や海、そして人びとに触れたくなったらどうしようか。そんなことも感じさせる出会いだった。

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2014年07月14日 06:05に投稿されたエントリーのページです。

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