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ジェスカ・フープという女性ミュージシャン

Jesca Hoop
"Stone Child"
"Kismet"
"Love Letter For Fire"

jesca2.jpg ・ジェスカ・フープというミュージシャンは中川五郎のブログ「グランド・ティーチャーズ」で知った。特に若いミュージシャンについてのアンテナがないぼくには、彼の勧めはずい分役に立っている。ダミアン・ライス、ウォリス・バード、ミルク・カートン・キッズなどだし、ジョーン・バエズの引退やウディ・ガスリーのアルバムなどもこのブログで初めて知った。今のぼくには唯一の情報源といってもいい。

・彼のブログによればジェスカ・フープは2007年に"Kismet"でデビューしている。音楽好きのモルモン教徒の家に生まれ育ち、北カリフォルニアの原野に入植したり、情緒不安定児のリハビリ教育に携わったりした後に、音楽活動をし始めている。デビューのきっかけはトム・ウェイツの家で子どものお守りをしたことだったようだ。トムが気に入ってデモ・テープを紹介したらしい。トムはジェスカを「四面あるコインのようで、夜の湖で泳いでいるようだ」と形容した。

jesca1.jpg ・聴いていて感じるのは、今まであまり聴いたことがないサウンドだし、ちょっと昔の音楽のようにも、まったく新しいものにも思えることだ。透き通った優しい声なのに、どこか棘や影がある。それはデビュー・アルバムの"Kismet"にも、最新作の"Stone Child"にも共通している。「キスメット」は「神が定めた運命」を意味するイスラム教のことばで、「ストーン・チャイルド」は「化石胎児」を意味している。そして、どの歌の歌詞も難解だ。


希望は闇の中で生きている
彼は彼女のベッドで眠り
闇がテーブルを満たすのは
希望がもたらした心痛で望みをもたない友達だ ”All Time Low"

・"Stone Child"についていくつかのレビューを読んでみた。中にはこのアルバムのテーマが「人生の残忍さ」にあると書かれたものもあった。生まれることができなかった胎児と直接関わるのはその母親だが、そこには母性や子育て、そして性差別などの問題がある。それをストレートなメッセージではなく、比喩的に歌にする。複雑な問題を複雑なままに歌いあげる。わかりにくいが何となくわかるような気がした。

jesca3.jpg ・もう一枚はサム・ビームとの共作だ。そして彼女だけのアルバムとはだいぶ違っている。共演するアイデアはサムからだったようだ。タイトルのように全曲ラブ・ソングだが、二人がこのアルバムや歌に込めている思いは同じではない。レビューによると、サムは「もらった、あるいは出さなかったラブレターを火の中に入れているような」と言い、ジェシカは「終わってしまった一過性の愛のはかなさ」を表していると言っている。デュエットは会話のようなもので、共鳴する瞬間もあればすれ違いもある。なるほどと思いながら聴いた。
・それにしても洋楽についての情報が少なくなった。若い人がほとんど興味を示さなくなったせいだろう。内向きもここまでくると、そろそろ反転してもいいのではと思うが、どうだろう。内向きは音楽の好みに限らないから、どこかにきっかけがあるかもしれない。年始めの希望的観測である。

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2020年01月06日 06:05に投稿されたエントリーのページです。

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