« MLBとNHK | メイン | テロと音楽の力 »

観光地の光と影

・8月が終わると、河口湖周辺は急に静かになる。まだまだ下界は暑いし、避暑地も9月の方が天候もよいのだが、なぜか人びとは8月に集中する。あれほどいた、湖畔の釣り人やキャンパーも、湖の水上バイクも嘘のようにいなくなる。ぼくはおかげで、広い湖をカヤックを浮かべて独り占めだ。
・ものすごい不況で、観光客は減っていると地元の人たちは言う。「ユニバーサル・スタジオ」に客を取られたと言う人もいる。9月からは「ディズニー」に新しい呼び物ができる。そうなると、人はますますこなくなるのかもしれない。けれども、新聞にはこの夏の山梨県の観光客は微増だと書いてあった。ぼくもたしかに交通量が大したことないと感じていたが、この感覚のズレはどこから来るのだろうか。
・河口湖町は観光地として環境を整備することに積極的で、美術館やホール、それにハーブ園のたぐいをいくつも湖畔につくった。オルゴールの森美術館や猿劇場など、民営の施設も多い。だから、駐車場には観光バスが並んでいて、周辺はいつでも人の波が絶えないほどだ。道路の脇には花が植えられて、ていねいに管理されているから、冬をのぞけば、いろいろな花が楽しめる。あるいは、このような施設をつかった催し物の企画もある。たとえば、ラベンダーの花の咲く時期には、「ハーブ・フェスティバル」が数週間開催された。ぼくのパートナーも陶芸家のコーナーに作品をならべたが、訪れる客は多かった。
・こういった客にあわせてうまい商売をする店もある。ぼくがよく行くスーパーには、キャンプでバーベキューをするための材料が、いつでも豊富にならべられている。だから地元の客に混じって、グループで買い物をする若い人たちや家族連れもよく見かける。コンビニでは釣り竿等も売っているから、手ぶらで来て、釣りとバーベキューを楽しんで日帰りすることもできる。河口湖漁協も釣り人から新しい税金を徴収しはじめたから、だいぶ収入が増えたようだ。
・ところが、客の流れはこういうところに集中していて、古くからある商店街の人通りはほとんどない。昔ながらの洋品店や雑貨店には、いつでもシャッターを下ろしているところもある。収入はどうしているんだろうと心配になるほどだ。あるいは、湖畔にも倒産して廃墟化したホテルや旅館、レストラン等も多い。繁盛しているところとさっぱりなところが極端なのだ。
・隣の富士吉田では、今年も26日に火祭りがあって、大松明の並んだメインストリートは人でごった返した。しかし、街の寂れた様子はひどくて、ふだんはシャッター通りなどと呼ばれるところもある。観光客がこないうえに、地元の客を外から来た大型店に取られてしまっていて、ほとんど対応策もとれない状況のようだ。
・難しい問題だと思う。こうすれば解決できるなどという提案はとても出来ないが、よそから移り住んできた者として、気になるところがいくつかある。その一つは、この周辺地域に住む人たちの意識や人間関係に見られる閉鎖性だ。
・地元の商店で買い物をしたり、歯医者にいったり、あるいは仕事を頼んだりしてお金を払っても、領収書はめったによこさない。万単位であってもそうだから、スーパーやコンビニとの対照はずいぶん目立ってしまう。バイクの修理をしてお金を払ったあと、なおっていないことがわかってもう一回預けたことがあった。修理個所がわかったらおおよその見積もりを出して、いつ頃までに仕上がるかなどの連絡が来るのが普通だと思っていたから、再修理のときにいろいろ文句を言った。そうしたら、留守になおったバイクを持ってきて、それっきり。こちらから連絡する気はなかったので、結局、修理の明細も領収書もなしのままだった。たぶんよそ者で、やりにくい相手だと思ったのだろう。
・こんな仕事のやり方をするのは、顔見知り相手の商売をしているからだろう。それはそれで他人行儀でなくていいかもしれないが、狭い世界でしか通用しないやり方だ。モノを売るにしても、修理やサービスにしても、地元の慣習が通じない人間を相手にできなければ、先細りになるのは明らかだ。
・ぼくは、買い物をして、おつりをごまかされたことが何度かある。あるいは、噂では、他府県ナンバーの車にはガソリンを高く売りつけるスタンドがあるそうだ。そういう経験をすると、客はどんどん離れていってしまうと思うが、観光地で一見さん相手の商売と高をくくっているのかもしれない。こういったことは観光地ならどこにでもある話だろう。けれども、ここは東京から100kmで、くりかえし来る人も多いのだ。
・今年観光客の数が増えたのには、格安料金での日帰りバス・ツアーが人気を呼んだことが一役買っている。そのお客さんたちはコースで決められたたところにしか立ち寄らないし、日帰りだから、宿泊もしない。若い人たちには、コンビニさえあればあとは何もいらない。そうすると、どんな商売をするにしても、特徴をはっきり出して、ホームページなども出して、誰にでも通用するスタイルで客に接することをしないと、ますます観光客は寄りつかなくなってしまう。あるいは地元の客にしても、若い人たちは全国チェーンや個性的な店に足を向けるばかりだろう。
・社会の仕組みを変えることの難しさは、政治や経済の構造改革に限らないのだが、それは文化(人間関係や生活習慣)の変革を伴うから、本当に難しいのだな、と思う。これは小泉さんには期待できない自分自身の問題なのである。

About

2001年08月29日 13:21に投稿されたエントリーのページです。

ひとつ前の投稿は「MLBとNHK」です。

次の投稿は「 テロと音楽の力」です。

他にも多くのエントリーがあります。メインページアーカイブページも見てください。

Creative Commons License
このブログは、次のライセンスで保護されています。 クリエイティブ・コモンズ・ライセンス.
Powered by
Movable Type