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MLBとNHK

・テレビが「イチロー」ではしゃいでいる。新聞や雑誌も同様だ。確かにイチローは活躍している。アメリカでの人気もすごいものだ。うまいバット・コントロールや敏捷な動き、華麗な守備、強肩と三拍子も四拍子もそろっている。今さらながらに、すごい選手だったのだ、と認識させられたのは事実だ。アメリカのメディアでのイチローの形容もおもしろい。「魔法使い」「レーザー・ビーム」のような投球、ヒットにならない「エリア51」「ICHIRIFFIC(いちろ<おどろ>き)」となかなかしゃれている。彼の登場で、確かにメジャー・リーグがまたいっそうおもしろくなった。

・しかし、である。それだけに、日本のメディアのはしゃぎすぎやミーハーぶりは不愉快になる。スポーツ新聞や民放のスポーツ・ニュースはさもありなんと、最初から予想していた。しかし、NHKの態度には不愉快を通り越して怒りさえ覚える。いったいNHKはいつから、視聴率ばかりを気にするチャンネルになったのか。

・何しろ今年のMLB中継はそのほとんどがマリナーズになって、去年まで楽しむことができた日本人選手の試合はほとんど見ることができなくなった。野茂の調子がNHKの予想以上によくて、マリナーズとかち合わないときには中継するが、それもあくまで、脇役にすぎない。僕はそのNHKの現金さ、薄情さ、ミーハーさにあきれている。メジャーリーグ中継をこれほどポピュラーにした野茂の功績を、NHKはまったく自覚していないのである。

・ところが、そんな気持ちをもっているのが僕だけでないことがわかる番組があっておもしろかった。NHKはMLBのオールスター前に特集を組んだ。2時間の枠で、スタジオはイチローでもりあがっていた。で、いくつかの話題を視聴者に投票させて、そのベスト3を放送ということになった。たぶんNHKのもくろみは、イチローと佐々木、それに新庄だったのだろう。ところが結果は野茂が1位でイチローは2位。佐々木も新庄も圏外だった。

・その結果が発表されたときにスタジオに生まれた一瞬の沈黙。そして、野茂のノーヒットノーランをもう一度見たい人が多いんでしょうね、という納得の仕方。ぼくは見ながら大笑いで、ついでに「ざまー、見ろ」と言ってしまった。野茂が1位になったのは、まちがいなく、日頃のNHKに対する不満を爆発させた野茂ファンの抵抗なのだ。何しろノモマニアは年季がはいっていて、インターネットにも慣れている。昨日今日のにわかイチロー・ファンとはちがうのだ。実はその日の朝、野茂はアトランタに勝って8勝目をあげたのにNHKは放送をしなかった。野茂を応援するサイトの掲示板では、NHKへの抗議を呼びかける書き込みがにぎやかだったのである。

・小泉人気もふくめて、人びとの関心がメディアによってつくりだされ、増幅されていることがあからさまになる状況が生まれている。それをファシズムなどと批判する人もいるが、僕はちょっとちがうと思う。何しろ、メディアの意図や魂胆は浅薄でまるみえなのだから。私たちは十分にシナリオを知っていながら、それに乗る。理由は一緒に楽しみたいからだ。だから、興味が失せれば、メディア以上に素早く、話題を捨て去りもする。メディアの影響力は確かに大きくなったが、それに対応する視聴者や読者の姿勢も変わってきた。

・日本の写真誌の取材の仕方に抗議して、マリナーズが日本の報道陣の取材を禁止したそうだ。野茂、伊良部、そしてイチローと、メジャー・リーグは身近になっても、日本のメディアの発想や姿勢は変わっていない。ケガで休んでいる新庄を追いかけ回す報道陣にうんざりして、新庄が「こんなところで何やってんの!?もう日本に帰れよ!!」と言ったことがある。海外へでたスポーツ選手が一様に感じる日本のメディアに対する不信感。サービス精神溢れる新庄も、ケガで休んでいるときにつきまとわれるのには腹が立ったのだろう。
・しかし、そのコメントに自省の念をもつメディアはまったくない。蛙の面にションベン。相変わらずの井の中の蛙なのだから当然だ。どんな情報も日本のメディアを介さずに手に入れられる環境ができていることにいまだに危機感をもっていない。野球やサッカーをきっかけにして、受け手が井の中ではしゃぐ人たちと、その外に目を向ける人たちに二分されはじめているのはまちがいないことなのにである。 (2001.07.16)

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2001年07月16日 23:10に投稿されたエントリーのページです。

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