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アイルランドのパブ

パブでギネスを飲みながらアイリッシュ音楽を聴く。それがこの旅の目的の一つだった。アイルランドで訪ねる都市はダブリンとコークで、ガイドブックにはどちらの街にも音楽が満ちあふれていると書いてあった。
けれども、コークの街を歩いても、あまり音楽は聞こえてこない。メインの通りはにぎやかで華やかだが、一歩はずれると閑散としていて汚かったりする。とにかく、工事中の現場が多い。アイルランドはEUに加盟してから観光都市づくりにがんばっていて、特にダブリンとコークは街の改造に忙しい。それでずいぶん便利になり、魅力も増えたのだろうが、古い建物が次々壊されコンクリートに変わっていくのは、ロンドンの煉瓦や石の家を見てきただけに、対照的に見えてしまう。街の整備を急ぎすぎているせいだろうか。あるいは修復困難なほど廃れた建物が多いということなのだろうか。


そんな街の所々に昔ながらのパブがある。昼間から開いていて、入り口にはほろ酔いばかりでなく泥酔気味の人が立ってタバコを吸っていたりするから、なかなか近づきにくい。もっとも目が合い、「ハロー」というと、素朴な顔に愛嬌のある笑顔が見えたりする。けれども、やっぱり警戒してしまう。昼間からこれだと夜はもっとやばいかも。などと最初のイメージは消えて、気持ちはどんどん退却を始めている。で一日目は、あちこちウロウロして結局入らずじまいだった。ライブはだいたい夜だけで、しかも9時過ぎがふつうのようだ。こちらに来てから、そんな遅くまで起きていたことがない。


目星をつけたパブに入る。三軒並びで左隣も同じ時間にライブをやる。開始は9時半からで「父と子」という名の二人組がやるという。パブの中は薄暗く、小便臭い。監視カメラのビデオモニターが二つもあって、客はまばらだ。カウンターの中にはセクシーな女性が一人。ギネスではなく、コークのマーフィーという黒ビールを注文する。1パイントで3ユーロ15セント。心地よい苦みですっと入っていく。

バンドは本当に父と子の組み合わせのようだ。父がギターを弾き歌を歌い、息子がベースをやる。アイリッシュ音楽ではないようでちょっとがっかりしたが、ギターのイントロを聴いてびっくり。ディランの曲から始まったからだ。父のコスチュームはヴァン・モリソン風で白髪に黒い帽子がよく似合っている。歌は2曲目も3曲目も、ずーっとボブ・ディランで、割と初期の知っている曲ばかりだったので、ついつい一緒に声を出して歌ってしまった。

ライブが始まると続々人が入ってきて、いつの間にか席は埋まって立ち見で一杯になる。踊り出す人もいてにぎやかだが、おもしろいのは文字通り老若男女が入り交じってディランの曲を口ずさんでいることだった。世代ギャップが当たり前の、日本ではこんなことはまずない。昼間危惧していた酔っぱらいのおっちゃんたちはどこに行ったのか、怖い雰囲気という最初の印象は完全に払拭された。「父」はディランを40分ほど歌って、休みもせずに次はジョニー・キャッシュを歌い始めた。こんな調子だと、ヴァン・モリソンもやるかもしれない。しかし、時間は10時半を過ぎていて、明日が早いから出ることにした。

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2005年09月06日 09:19に投稿されたエントリーのページです。

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