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再録「キャンパスブログ」(朝日新聞多摩版)

その1・河口湖から

・ 東京経済大学は国分寺市にある。キャンパスには緑が多く、多摩川の河岸段丘の傾斜地に建つ研究室の窓からは、雑木林ごしに府中の街並みが見える。天気がよければ多摩丘陵から丹沢山地、それに富士山まで見渡すことができる、極めて眺めのいい部屋である。

・ぼくはこの大学のコミュニケーション学部に所属して、「現代文化論」や「音楽文化論」を教えている。コミュニケーションと名のつく学部は日本で初めてのもので、IT技術の普及や文化研究の高まりを見越して、1995年に開設された。また、学部が卒業生を送り出した99年には大学院が新設され、ぼくはそのスタッフとして赴任した。コミュニケーション研究科もすでに9年がすぎて、何人もの博士を生みだしている。

・ 東経大に来るまでは、ぼくは京都に住んで、大阪の大学に勤めていた。で今は、河口湖に住んで、車で通勤している。長年の夢だった田舎暮らしを実現させたのだが、高速道路のおかげで片道1時間半ほどの行程ですんでいる。ただし、高低差が800メートルで、気温が時に10度も違うから、疲れがたまると体が悲鳴をあげることもある。だから、東京で道草などせず、用が済んだらすぐ帰還を心がけている。とは言え、ぼくは子どもから青年の時代にかけて府中で過ごして、両親が今でも健在だから、大学周辺にはなじみの場所も友人も少なくない。

・ JR中央線国分寺駅の南口から大学に向かって坂を下ると「ほんやら洞」という喫茶店がある。店主の中山ラビさんは、シンガー・ソングライターのさきがけだった人で、今でも熱心なファンがいて、時折、ライブ活動などもしている。ぼくは彼女と高校が一緒で、また京都でも、長い友達づきあいをしてきた。だからたまには店によって珈琲(コーヒー)を一杯といきたいのだが、それがなかなかままならない。昼休みではちょっと慌ただしいし、仕事帰りだと車を駐車場にとめなければならない。当然、珍しく顔をあわせると、「ご無沙汰(ぶさた)ね」と言われてしまうことになる。

・ この喫茶店、通学路にあるのに東経大の学生はめったに入らない。理由はと聞くと、こだわりやいわくがありそうで敷居が高いのと、学部の先生たちが入り口近くのカウンターにたむろしているからだという。だったらと、ゼミコンパをやって、雰囲気を味わってもらったりもした。60年代末の、ぼくやラビさんが学生だった頃の「風に吹かれて」、彼や彼女たちは、いったい何を感じるのだろうか。

2008年03月17日掲載

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2008年09月07日 21:31に投稿されたエントリーのページです。

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