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忖度と印象操作

・森友問題が話題になってすぐに、「忖度」ということばが注目されるようになった。「相手の心をおしはかる」といった意味で、森友学園や篭池氏に対する安倍首相や夫人の気持ちを、担当所管の官僚が「おしはかった」のではとして使われている。似たことばに「斟酌」があって、こちらの意味は「相手の心をくみ取って手心する」だから、行動まで起こしたら、「忖度」ではなく「斟酌」の方が正しいのかもしれないと思った。もっとも、「忖度」を行動を伴うものとして使うこともあって、それは新しい最近の傾向らしい。

・いずれにしても、この種のことばは日本人のコミュニケーションには欠かせないもので、似たことばとしては「阿吽の呼吸」や「以心伝心」、あるいは「空気を読む」といったものがある。京都には「ほんまのことは言うもんやない。わかるもんや」という格言がある。わからない人には「ぶぶ漬けでもどうです」と言わなければならないことになる。どれも日本人独特の関係やコミュニケーションの仕方だから、英語には訳しにくいことばだとも言われている。

・しかし英語にも、たとえば "tact"(察し)といったことばがあって、気づいても知らないふりをするとか、ジェスチャーや表情から相手の気持ちをおしはかるといったコミュニケーションが行われている。この語から派生した "tactics"は戦略だから、相手が隠した秘密や嘘を見破ったり、相手の裏をかいたりといった意味にもなる。いずれにしても、ここには互いの間に上下関係があるわけではない。

・今話題になっている「忖度」には、上の者が暗黙のうちに下の者に理解させるといった意味合いが強い。それは暗黙のうちに伝える「命令」に等しいものだ。しかも、「忖度」して行った結果の責任は、あくまで下の者にある。森友問題における安倍首相の態度を見れば、よくわかることである。彼はここまで、「知らぬ存ぜぬ」で押し通している。もっとも首相夫人の立ち回りは「忖度」ではなく、自分の立場を利用した強要に近いお願いで、籠池氏はそれを「神風が吹いた」と表現している。

・首相夫人の国会での証人喚問要求に対して、首相は「妻をおとしめる印象操作だ」と感情的に反論した。しかしマスコミを使った「印象操作」はまた、安倍首相が日常的に行ってきたことでもある。「アベノミクス」は停滞した日本の経済を改善させるための良策であるかのように宣伝され、現実に好転したかのような発言をくり返しているが、現実は全く違っている。

・何度も廃案になった「共謀罪」を「テロ等準備罪」と言い換えて、今度は可決させようとしている。世論は「共謀罪」には反対でも、「テロ等準備罪」と言われると賛成多数に変わる。反対しにくくさせるように、オリンピックのためだと説明するが、名称とは違って、この法案には最初、「テロ」についての項目がなかったのである。こんなひどい法案は成立させてはいけない。そんな声が高まらないのは、マスコミが首相の意思を忖度しているせいだと言わざるを得ない。

・北朝鮮が韓国や日本を攻撃して、戦争になる危険性がある。それに関連したニュースが連日、テレビを賑わすのも、「印象操作」のいい例だろう。北朝鮮の振る舞いは、けっして無謀で勝手なものではなく、アメリカの「威嚇」に対する抵抗にすぎないのだ。戦争は北朝鮮にとっては自殺行為だから、やるはずはないのだが、日本ではミサイルの発射実験に、東京の地下鉄を止める対応をして、危機を煽った。止めるのがなぜ原発ではなく地下鉄なのか。

・他方で、ゴールデンウィーク前後には、首相を初めとして大臣たちはこぞって外遊に出かけていたし、首相は桜見物やゴルフにも興じていたようだ。危機を煽っておいて、当人たちは平時のままの振る舞いをする。そこには一体どんな「印象操作」があるのか。「森友問題」など自分にとっては大したことではない。そんな余裕の演出のようにも思える。「首相はもちろん議員も辞める」。彼は息を吐くように嘘をつき続けているが、この発言を現実にしなければ、日本は彼の妄想にどこまでもつきあわされることになってしまう。「忖度」や「印相操作」に惑わされてはいけないのである。

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2017年05月08日 06:56に投稿されたエントリーのページです。

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