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芝山幹郎『アメリカ野球主義』(晶文社)

・ワールド・カップ中だが、僕の関心は相変わらずメジャー・リーグにある。そう、ドジャースからメッツに移った野茂のことが気がかりなのだ。気分一新、早く自信を取り戻して!! そう願って、生中継をハラハラしながら見ている。こんなふうだから、本屋で『アメリカ野球主義』というタイトルを見たときには、中身など確かめずに買ってしまった。買ってすぐ喫茶店で珈琲を飲みながら読み始めると、もう止まらない。おもしろくておもしろくて。で、家に帰ってまた読み続けて、読み終えたときには真夜中だった。
・何でこんなにおもしろいんだろう、と考えたら理由が二つ浮かんできた。一つは、メジャー・リーグにある逸話やユニークな選手の豊富さ。これは例えば、レイモンド・マンゴーの『大リーグなしでは生きられない』(晶文社)を読んだときにも感じたことだった。生で見たことなど一度もないメジャーの選手やゲームの話になぜかわくわくする気持ちを持ったが、それは日本の野球やその描写には一度も感じたことがないものだった。
・タイ・カップ、ベーブルース、シューレス・ジョー、ミッキー・マントル、ノーラン・ライアン.........。メジャー・リーグは歴史が長いのだから、伝説の人たちが多いのは当然である。けれども、逸話の提供者たちは現役プレイヤーにまで続いている。マクガイア、ケン・グリフィJr.、カール・リプケン。悪名高いところではヤンキースのストロベリー、グッテン。そこに去年の伊良部。ヤンキースといえば、オーナーのスタインブレナーもなかなかの人のようだ。もちろん、野茂についての文章は感動的だ。
・この本を読まなくとも、メジャー・リーガーが個性的であることはテレビでゲームを見ていればすぐわかる。しかし、もっと大きいのは情報量の少なさではないか、という感じがした。日本のプロ野球選手は巨人と阪神ばかりが注目されて、後はほとんど話題にもされない。しかも、甘やかしや揚げ足取りをしながら、もう一方で精神論や道徳論が幅をきかしすぎる。だから、ぜーんぜんおもしろくない。と僕は思う。うんざりして聞く耳すら持つ気がない。同じ調子で野茂や伊良部を追いかけるから、彼らにいつでもうんざりした顔をされてしまう。そうされながら、記者たちは自分たちのおかしさに気づかない。日本のプロ野球や選手をつまらないものにしているのは、誰よりマスコミなのである。
・この本のもう一つのおもしろさは、文章というかレトリックのうまさにある。芝山幹郎という人は読ませるコツを憎らしいほど心得ている。日本人のくせになぜこんなにメジャー・リーグのことに詳しいんだろう。そんなことを思いながらも、それがけっして知識のひけらかしにはなっていない。僕にもこんな文章が書けたらいいのに、読みながらちょっと嫉妬してしまった。(1998-06-17)

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1998年06月17日 10:59に投稿されたエントリーのページです。

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