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再録「キャンパスブログ」(朝日新聞多摩版)

その4・大学院生

・  大学院には多様な学生がやってくる。学部からまっすぐ上がってくるだけでなく、途中で寄り道して戻ってきたり、仕事と掛け持ちしたり。最近では定年後にもう一度勉強を、という人も少なくない。もちろん、アジア各地からの留学生もかなりいる。ぼくのところにいる学生たちも、そろって個性的だ。現役のミュージシャンがいるし、元お笑い芸人もいる。新聞記者もいたし、高校や看護学校の先生もいた。このコラムのイラストを描いている佐藤さんは、デパートのファッション部門で働いている。それに加えて、韓国や中国からの留学生と、現役の学生たち。

・ それぞれの経歴はもちろんさまざまだし、関心も、大学院に来た目的も同じではない。専門はもちろん、教養的な知識もでこぼこだし、語学力もまちまちだ。それに留学生には日本語習得という課題もある。一律に講義などという授業はとてもできないのが現状だ。だから、授業はすべてゼミ形式でやり、時間も延長して、それぞれの関心事を順に報告する形でやってきた。自由にやりたいようにやる。それが方針だが、それだけに、テーマを分析する方法や読むべき参考文献なども、各自にあわせて適切にアドバイスしなければならない。これがなかなか大変な作業なのである。

・ 大学院には2年間の修士課程があり、その後に3年間の博士課程がある。勉強や研究の成果は論文としてまとめられるが、ぼくは学術的なスタイルを強く要求しないことにしている。誰もが研究者になりたいわけではないし、なりたくても、その道は極めて狭く、競争が厳しいからだ。 「学術的であるより、読み物としておもしろいものを書け」。これが学生たちにくりかえし言うアドバイスだ。その甲斐(かい)があってか、お笑い芸人出身の瀬沼文彰君は修士論文をもとに『キャラ論』(スタジオセロ)を出版したし、ミュージシャンの宮入恭平君は『ライブハウス文化論』(青弓社)を書いた。

・ もっとも、修士論文を書いた大半の学生は、博士課程に進んで、勉学や研究を続けたがる。ぼくは極力反対するが、それで諦(あきら)めた学生はほとんどいない。将来のことを考えたら、気安く受けいれられることではないが、それを承知で続けたいというのだから、もう、反対する余地はない。新聞記者をやめて博士課程に進んだ加藤裕康君は、去年「ゲームセンターにおけるコミュニケーション空間の形成〜」で博士号を取得した。で、今は大学の非常勤講師として、東京と神戸の往復だ。大変な日々を向学心が支えている。


2008年04月07日掲載

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2008年09月10日 08:01に投稿されたエントリーのページです。

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