東京経済大学とグローバル社会#1

グローバル時代に働く世代が
いま鍛えるべき力とは

あらゆる市場でグローバル化が加速する今日、求められる人材とは。
小田登志子准教授(全学共通教育センター)、小山健太准教授(コミュニケーション学部)、
サフチェンコ・リュドミーラ准教授(経済学部)が語り合った。

  • サフチェンコ・リュドミーラ 准教授

    経済学部

    サフチェンコ・
    リュドミーラ准教授

    慶應義塾大学大学院博士(経済学)。主な担当科目は、国際経済学、国際貿易論

  • 小田 登志子 准教授

    全学共通教育センター

    小田 登志子准教授

    米・コネチカット大学大学院博士(言語学)。主な担当科目は、英語、言語学

  • 小山 健太 准教授

    コミュニケーション学部

    小山 健太准教授

    慶應義塾大学大学院博士(経済学)。主な担当科目は、国際経済学、国際貿易論

グローバルな
「視座」と「手段」と

ゼミでの研究テーマを教えてください。

小山企業内の「異文化マネジメント」について研究しています。労働力人口が減少し、経済のグローバル化が加速度的に進む今日、外国人社員と日本人社員が円滑にコミュニケーションをとり、いかに成果を上げていくかは、日本企業にとって大きな課題です。ゼミ生の研究のテーマは、「日本人上司の対応による外国籍人材のモチベーションの変化」「育児中の社員の働く意識を高めるコミュニケーション」などさまざま。全国の学生が競う「国際ビジネス研究インターカレッジ大会」に挑戦する学生もいます。

サフチェンコ人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、3Dプリンターといった最新技術の発展が、財・労働・金融の各市場にどのような影響をもたらすかを、マクロ経済学の観点から研究しています。例えば、仮想通貨やキャッシュレス化は金融業界をどう変えるのか。コンマ数秒で情報が世界に駆け巡るいま、財や労働市場における企業の戦略はどう変わるのか等々。世界が一段と狭くなりつつある今日、個人や企業が今後どう対応すべきかをさまざまな事例を通して考えていきます。

小田英語圏への留学希望者を対象に、英語による基礎学力の養成を行っています。単なるTOEFL®対策ゼミと誤解されることがありますが、そうではなく、「英語で行うフレッシャーズ・セミナー*」といったイメージでしょうか。TOEFL®の問題は非常によくできており、例えば「脳死の際の臓器提供、賛成か反対か」といった論述問題が出されます。これ、ほとんどの学生は当初、日本語でも答えられません。ゼミで指導するのはごく基本的なことで、各段落の冒頭に要約を記す「パラグラフライティング」などの手法を徹底的に教え込みます。すると、TOEFL®やTOEIC®の点数が上がるだけでなく、日本語の作文が得意になったり、GPA(成績評価値)が上がったりと思わぬ効果もあるそうです。英語であれ日本語であれ、論理的思考力を鍛えることが鍵なのです。こうして、最初TOEIC®400点台だった学生が900点台を叩き出して卒業していく例も珍しくありません。また、東経大の協定校をはじめとする海外の大学や大学院で学んだ学生は皆、こちらが驚くほど成長して帰ってきます。自主学習を地道に続けるのは大変ですが、いま習得すれば英語は一生モノ。頑張ってほしいですね。

*フレッシャーズ・セミナー:新入生全員が履修する授業。レポートの書き方やプレゼンテーションの方法など、大学での勉強方法を学ぶ

大きく変わる
労働市場のいま

グローバル社会で働くことは、従来と比べてどんな点が変わるのでしょうか。それぞれのお立場から教えてください。

サフチェンコ数年前、私はあるニュースに衝撃を受けました。それは、パキスタンに住む12歳の少女が米スタンフォード大学の無料オンライン教育サイトで「機械学習」と「物理学」を学び、同大学の学生を超える優秀な成績を収めたというもの。ほんの10年前ならこんなことは起こりえませんでした!インターネットの普及・発展により、誰でもどこでも世界水準の教育を受けられる。それはすなわち、教育においてもその先の労働市場においても、従来はなかった熾烈な競争が繰り広げられるということです。現に、例えば米国の航空機産業の設計や製造の多くがすでに、東ヨーロッパ諸国やアジア諸国で行われています。何のために、どのような力を身につけるべきか。個々人があらためて考えるべき時期に来ているのかもしれません。

小山グローバル社会における日本企業は、「日本の企業風土の長所を生かしつつ変わっていく」ことが重要だと思っています。日本企業がいわゆるグローバルスタンダードの組織と大きく違うのは、明確な職務に人をあてはめる「ジョブ型」ではなく、人ありきで職務を限定しない「メンバーシップ型」の組織である点です。それぞれ長所・短所はありますが、日本のメンバーシップ型組織の良さのひとつが、「会社を良くしたい」「より良いものを生み出したい」という現場の高いモチベーションや他の社員とのチームワークにあります。この特性は本来、異文化マネジメントとも相性がいいはずなのですが、問題はその組織の多くが「日本人、男性、新卒」という同質的な人材を前提に作られてきたことにあります。しかし今後はそうはいきません。これからは、「外国人、育児・介護中の人、病気の治療中の人、シニア層」と多様なバックグラウンドの人をもチームの一員とし、各々が個性を活かして組織に貢献し、相互に支援・成長しながら新たな価値を生み出す。そういう組織づくりが必要ですし、日本企業はそれができると思います。また、異文化マネジメントを学んだ若い世代が、今後現場から組織風土を変革していってくれることを期待しています。

グローバル人材に
求められるもの

「グローバル人材」とは、どんな能力を備えた人材ですか。

小田語学教員的な答えは、「世界の多様な人と話し合える人」でしょうか。いまの日本には、ビジネスで通用するレベルの英語を身につけている人が未だ少ないのが実情です。ちなみに、英語を一定のレベルで使えるようになるには2,000~3,000時間の学習時間が必要とされています。中・高・大で普通に学んだ場合は1,000時間ほど。「大学まで行ったのに英語ができない」と嘆く人がいますが、それは単純に学習時間が足りていないんですね。また、個人的な見解をお答えするなら、グローバル人材とは「海外で稼ぐこともできる人」。例えば、自動車のエンジニアをしている私の夫は英語を大して話せませんが、最先端の技術を身につけていますから海外に行っても仕事はすぐに見つかるでしょう。一見矛盾しているようですが、世界で活躍するためには「英語が必要である」一方、「英語だけできても不十分」なのです。

小山先行きが見えず正解もわからない混沌とした状況のなかでも、しっかりと自分の頭で考え、信念を持って実行していける人材のことだと思います。その過程では、さまざまな変化への柔軟な対応力や、多様な人に学ぶ謙虚なコミュニケーション力も大切です。そんな人材は国の内外を問わず活躍するはずです。

サフチェンコ地球全体の視点で物事を考えられると同時に、自分が軸足を置いているその場所にきちっと貢献できる人ではないでしょうか。ちなみに、日本人は英語が苦手と言われますが、私は自分の経験上、土台である母国語がしっかり身についていればどんな外国語も習得できると思っています。皆さん、日本語の能力向上をまずしっかり頑張ってください(笑)!

大学生活を充実させるためのアドバイスをお願いします。

小山ゼミは、海外にはない日本の大学が誇るべきシステムです。コミュニケーション学部なら2年次からゼミが始まりますから、専門分野を深く学べるうえ、集大成の卒業研究は論理的思考力や表現力を磨きあげる何よりの訓練になります。大学ではぜひゼミに入って、自分自身を大きく成長させてほしいと願っています。

サフチェンコ小山先生のゼミの話に付け加えるなら、先生やゼミ生と深く関わることでコミュニケーション能力も鍛えられますよね。卒業後は誰も教えてくれませんから、社会に出るために必要な準備を整えるには絶好の場だと思います。

小田“Expandyourhorizons.”という言葉を贈ります。あなたの地平線を広げよ、すなわち「視野を、世界を広げなさい」という意味です。海外留学はもちろんそのひとつの方法ですが、身の回りでも実践できることはあります。例えば私は最近、国分寺市国際協会で外国人の方々とおしゃべりするボランティアをしており、先日はゼミの学生も参加してくれました。世界を広げるために、小さな事からでもチャレンジを続けてほしいですね。