渋滞なんて無くなればいい、ときっと誰もが思うでしょう。しかし、もし完全に渋滞を解消しようとすると、あちらこちらで非常に大規模な道路整備や拡幅が必要になります。用地やコストの面から考えても非現実的です。かといって、あまりにひどい渋滞を放置すれば、利用者の利便性は損なわれます。いわば社会にとり「最適な混雑状態」を目指すことが大切なのです。
価格設定も同様です。運賃や道路料金は安い方がいいと感じるでしょうが、度が過ぎると、車両整備や人員配置にしわ寄せがいき、安全面がおろそかになるかもしれません。さらに、投資した資金が回収できず、サービスが廃止されたり事業者の経営自体が成り立たなくなることも考えられます。重要なのは「最適な価格設定」です。
このように、交通サービスの供給に必要な「費用」と、もたらされる「便益」を分析し、社会全体にとっての「最適な交通の状態」を目指す学問が交通経済学なのです。
「交通経済学」が取り扱う交通サービスは、一般的な「経済学」が前提とする完全競争市場のもとではうまくいかないことがしばしばあります。
高速道路を例に考えてみましょう。高速道路の建設・運営にかかる費用は莫大です。その回収にかかる数十年間の経済状況を正確に予測することは困難ですから、通常の民間企業は参入しにくいですね。すると、交通資本の整備は進まず、経済活動は停滞してしまうでしょう。一方、公的介入によって事業が独占・寡占状態となった場合は、適切な規制のあり方や疑似的に競争させる方法も考えねばなりません。また高速道路の建設は、利用者のみならず周辺地域にも多大な影響を与えます。経済発展や雇用創出といったプラスの効果はもちろん、騒音や大気汚染といったマイナスの効果も十分に考慮する必要があります。
上記はほんの一例ですが、交通サービスにはこのように、一般的な財・サービスとは異なる特性が多々あるため、応用経済学の一分野として「交通経済学」が存在するというわけです。
一昨年は、北海道新幹線開業に伴う沿線地域への波及効果がテーマだったので、函館市でゼミ合宿を実施しました。経済効果については既に様々な分析がされていましたが、現場の生の声を自分たちで聞いてみようと考えました。結果、「函館への観光客は増えたが周辺地域には思ったほど広がっていない」「需要の季節変動が大きく雇用の面に影響を与えている」などの声を地元の人から直接に聞くことができました。
この時は、道庁(渡島総合振興局)や市役所、ホテル旅館協同組合などへのヒアリング依頼、ホテルや新幹線の手配も、すべて学生たちが行いました。見ず知らずの大人と接するという点でも、良い社会勉強になっていると思います。
東日本大震災の翌年、都心に通勤・通学している帰宅困難者を想定して、新宿から国分寺まで実際に歩いて地図を作成したグループがありました。青梅街道と甲州街道の2つのルートに分かれ、トイレやコンビニの場所、学校や公民館などの公共施設をチェック。背広&革靴、ジーンズ&スニーカーと服装の違いによる疲れ具合なども比較しました。学生たちが作った地図を国分寺市の公民館で配布したところ大好評で、わざわざ遠方から訪ねてきてくださった方もいたほどでした。
どんな分野であれ、専門用語を使って説明する方がラクなものです。特に学内では、共通の知識のベースがありますから多少粗い解説でも理解してもらえます。でも、一般市民が対象の場合はそうはいきません。青木ゼミでは毎年11月、国分寺の公民館で展示する機会をいただいていますが、学んだことを分かりやすくアウトプットする良い訓練になっていると思います。図やグラフも入れてまとめたB1サイズの巨大パネルは、毎年力作ぞろいです。
最近は、パネルの前でプラレールも展示しています。きっかけは数年前、学生が偶然持参したNゲージが親子連れに喜ばれたこと。以来、「もっと集客するには?」と楽しみつつ試行錯誤しています。
ゼミで心がけているのは、学生の主体性を尊重すること。ここでの経験が、自分で考えて行動する、グループで協働する、期日から逆算し成果物を仕上げるといった、社会人として大切な力を養う場の一つになっていれば嬉しいですね。
※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。