会社の数字、すなわち財務情報とは、企業の状態を表す"健康診断書"のようなものです。安全性や投資効率といった財政状態や収益力といった経営成績が「貸借対照表」と「損益計算書」からわかることができ、これらの財務情報が投資や融資、取引などの判断材料になります。市場経済における経済活動を円滑にするために、またその健全性・効率性を保つために、財務情報は必要不可欠なのです。
「数字は苦手」と敬遠する気持ちも分かりますが、でも考えてみてください。財務諸表に表される数字のすべては、企業や人の行動の結果であり、業界や社会の情勢を反映した結果です。業績が落ちた理由は何か。お金の流れに不自然な点はないか。この企業が成長する可能性は──。数字の背景を読み取ることこそ会計の意義、面白さであり、その能力は今後皆さんが社会で生きぬく強力な武器になるはずです。
ゼミでの研究テーマは、財務情報に関することなら何でもOKです。あるチームは、20年間の累計利益を算出し上場企業の10%以上が累積赤字であったことを突き止め、また別のチームでは、有価証券報告書の重複箇所を洗い出して項目の無駄を指摘しました。ほかにも、会計基準が存在しなかった戦前の会計処理に注目し、現代の財務情報との比較に挑戦したチームもありました。大学図書館にこもって戦前の資料を手作業で集計する日々、図書館のスタッフとはすっかり顔なじみになったそうです(笑)。
もちろん、最初から財務情報を読み解ける学生はほとんどいません。貸借対照表や損益計算書の読み方に始まり、ごく基本的な分析から始めて徐々に力をつけていきます。グループワークなので先輩がうまく後輩をリードしながら進めてくれることも多いですね。
学生の意欲や能力を最大限に引き出すべく、学外で研究成果を発表する機会も設けるようにしています。社会人や研究者も応募する「プロネクサス懸賞論文」では、国際会計基準(IFRS)の適用により財務諸表の項目や内容がどう変わるかを分析し、優秀賞(2017年度)を獲得したこともあります。他に、投資テーマに基づくポートフォリオを作成しそのロジックを競う「日経STOCKリーグ」や、会計学を学ぶ学生が研究内容をプレゼンテーションする「アカウンティングコンペティション」などにも挑戦しています。
いずれも簡単に成果が出るものではありませんし、外部コンテストというのは指導する側も楽ではないです(笑)。でも「受賞は逃したけどこの半年間すごく充実していた」「頑張ってよかった」などという声を聞くと、指導者冥利に尽きますね。
すぐに答えを求めたり途中で投げ出してしまったりする学生が、一定数いることが気にかかります。研究活動においてもビジネス活動においても、即座に正解が分かるということはほぼありません。どうしたらいいのか分からずモヤモヤして、あきらめずに考え抜いて、ようやく答えに辿りついたとき、そこに大きな充実感や達成感があるのだと思います。モヤモヤしている過程すら楽しみながら、果敢に課題に挑む人であってほしいと願っています。
それから、社会人に比べてはるかに時間のある大学生のうちに、もっと貪欲に勉強してほしい。卒業後に訪ねてきてくれるOB・OGは必ず言いますよ、「もっと勉強しておけばよかった」ってね(笑)。経営学や会計学といった専門科目も大切ですが、哲学や文学、歴史といった教養にもたっぷり触れてください。すぐに役立つことはないかもしれませんが、今後の皆さんの人生を必ずや豊かに彩ってくれるはずです。
※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。