映像を例に考えてみましょう。少し前まで、映像は「テレビの前に座って見る」「映画館に出かけて見る」というのが当たり前でした。ところが、ここ10数年の間にスマートフォンやタブレット端末が普及し、私たちはいつでもどこでも映像を目にするようになりました。商業施設や駅にもデジタルサイネージがあふれ、電車の広告や運行情報も電子媒体に変わりつつあります。また最近では、"見るもの"が、タッチパネルをはじめとする"触るもの"を兼ねていることも珍しくありません。
これらの現象は、皆さんにとってはごく当たり前の経験で、普段とくに意識することはないでしょう。光岡ゼミでは、こういった私たちを取り巻く視覚文化に目を向け、その変化をメディア研究や社会学の観点から考えていきます。
身の回りの様々な事象を一歩引いて客観的に見る、すなわち、歴史的・地理的に視野を広げて見つめ直すことは、現代における視覚文化の立ち位置を正確に把握することにつながります。それは、今後の私たちのメディアや広告との付き合い方、街づくりのあり方などを考えるヒントになるはずです。
また、「どうしたらより便利になるだろう」「他にも新しい使い方はないだろうか」といった観点からメディアや広告と付き合っていくことは、これまでにない発想や創造を生む原動力となり、ひょっとすると新たなビジネスチャンスにつながるかもしれません。例えば、近年流行したフラッシュモブは「インターネットを現実世界とどうリンクさせると楽しいだろうか」という発想から生まれたものでしょう。もしかすると、皆さんがいま当たり前に使っているスマートフォンやタブレットだって、思いもよらない可能性を秘めているかもしれません。
春学期は、広告やアニメ、ゲーム、ファッションなど、私たちが日常的に接する視覚文化を生み出す多様な産業に関する文献を読み、理解を深めました。夏休みには、グループごとに企業へのインタビュー調査を実施。文房具店とカフェを融合させた「文房具カフェ」、地下鉄駅内の商業施設「Echika」、アウトドア専門の旅行代理店など、幅広いジャンルの企業への調査がかないました。見ず知らずの企業にコンタクトをとり、インタビューをするというのは負荷のかかる作業だったと思いますが、学生たちは自分たちの力で見事にクリアしてくれました。そして秋学期には、調査内容をまとめ雑誌記事風に編集しました。文献による調査、インタビューの設計・実施、そしてデータをまとめるという一連の作業は、社会学における論文執筆を行う過程を疑似体験する貴重な機会になったと思います。
このゼミは、就職のために有利なスキルが身につく、という場ではありません。ただ、社会人として通用する「ものを考える力」「相手に伝える力」はきっちり身につけてほしいと思っています。ですから、ボリュームのある文献をどんどん読みますし、レポートも何本も書いてもらいます。そして提出された課題は、真っ赤になるくらい丁寧に添削し学生に返します。社会に出て5年後や10年後に、ふと「あのときの経験が役に立ったな」「先生が当時言っていたのはこういうことか」と思い出してもらえる瞬間があればいいなと思っています。
私は東経大に来て3年目になりますが、学生の意欲次第で学びを深められる素晴らしい環境だと日々実感しています。教員は、学部のほとんどの学生の顔と名前を覚えていて非常に面倒見がいいですし、皆熱意を持って研究・指導しています。約77万冊もの蔵書を誇る図書館では、様々な学問との出会いがあることでしょう。さらに、国際基督教大学、東京外国語大学、武蔵野美術大学、国立音楽大学、津田塾大学といった多摩地区の5大学の授業を受講することもできるため、東経大をベースにして「社会と美術」「社会と音楽」について掘り下げるなど、研究の可能性はどこまでも広がっていきます。高校生はぜひ一度国分寺に来て、学びにふさわしい心地よいキャンパスの雰囲気を体感してほしいですね。
※掲載されている教員・学生の所属学部・職位・学年及び研究テーマ等は、取材当時のものです。