たしかに、道路交通法や刑法といった一般の「法律」に比べて、「憲法」は少し縁遠く感じるかもしれません。というのも、「法律」が主に私たち"国民"の権利を制限するものであるのに対して、「憲法」は"国"の権力に歯止めをかけるためのものだからです。例えるなら、国家という巨大なマシーンをどのように動かすべきかを記した「取り扱い説明書」といったところでしょうか。
憲法では、例えば「法律をつくる」という権力を行使する場合、「国会の衆参両議院で可決されなければならない」と定めています。このような決まりがあるおかげで、横暴な支配者や独裁者が自分勝手な国づくりをすることはできないのです。現代では当たり前と思われがちな「国民が幸せに暮らすための前提条件」を守っているのが、実は憲法なんです。
人権とは「人間が人間らしく生きるための最低限の権利」のことです。例えばいまの日本では、自由に職業を選択したり、言いたいことを自由に発言したり、誰もが教育を受けたりできますね。これは、憲法が国家権力を制限し「人権」を保障しているからです。最近話題になった「夫婦同一姓規定」の問題も、憲法の定める「個人の尊重」や「法の下の平等」が守られていないのではないか、という人権に関する論議でした(2015年12月、最高裁が合憲と判断)。
学生が近年取り組んだ研究テーマは、「アイヌ民族の差別」「特定秘密保護法」「放送における人権侵害」など様々です。ほかに、「いじめ」「女性の労働環境」「子どもの虐待」といった私人間の人権問題について研究する学生もいます。
久保ゼミでは、毎年10人ほどの学生が個人研究に取り組み、1年かけて小論文にまとめます。研究テーマは、"我が事として考えられる"人権に関する問題であれば何でもOK。まず、各自が興味のある新書を選んで読み進め、大まかな全体像をつかむところから始めます。法的な問題点がどこにあるのか見当をつけたら、論文や法令、さらに判例や法律解釈などと、徐々に学びを深めていくのです。学生の興味の対象は幅広く、新聞に載ったばかりの現在進行形のテーマを取り扱うこともありますよ。
2013・14年には「国分寺市明るい選挙推進協議会」との意見交換会に参加しました。一昨年のテーマは、18歳投票権・選挙権は是か否か。ゼミ生からは「政治に若者の意見をより反映できるようになるのでは」「少年法の改正もすべきでは」など、活発な意見が出されました。
18歳選挙権は様々な議論を呼んでいますが、全ての有権者が「選挙権」の意味をいま一度考え直すきっかけになればと思っています。なぜ選挙に参加すべきなのか。性別や納税額で選挙権が制限されないとはどういうことか――。憲法をきちんと理解することも、その一助になるのではないでしょうか。
大切にしているのは、法律の知識というより「法的なものの見方」、いわゆるリーガルマインドを身につけることです。これは、解決すべき課題や対立する意見について、「事実を正確に把握する」、そして「ルールや基準に照らして物事を判断する」ことです。このような論理的な思考力はあらゆる分野で求められるものですし、とりわけ多様な価値観が交錯するグローバル社会においてはより一層役立つ能力でしょう。
東経大の現代法学部は、法曹界で実務経験のある先生方が多く、資料やデータベースも豊富。いくらでも学びを深められる環境です。ぜひ学生時代のうちに、学問の基礎をじっくり身につけてほしいと願っています。
※掲載されている教員の所属学部・職位及び研究テーマ等は、取材当時のものです。